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かつてネット小説書いてた人のリハビリ場所

  7☆つばさ


 ある平日、学校が終わった帰り道。例のコンビニで特に用もないのに雑誌コーナーで表紙に気になるワードがないか見ていると、中学の同級生に久しぶりに会った。高校に入ってからは初めての再会だった。

「全国でもトップ3入りするようなかわいい制服着てるからどこの誰かと思ったら、つばさじゃない」

 斜め下に見下すような顔の角度と視線、つまらなさそうな表情、興味なさげな口調。そ
んな態度してまで話しかけてくんなよ! と初見さんなら思うような態度であるが、これが彼女のデフォルト。ツンデレさんかな? ツンツン。デレたところは見たことないような……。

「うわぁ、伊吹だー!」

 そんな態度されても、久しぶりの再会が嬉しくてついていないシッポを振ってしまう、わんわん!
 彼女の自宅は青木くんの家の近くなので意外と会いそうなものなのに、これまでに一度もなくて、偶然会えたことがなんだかとても嬉しかった。中央高校の制服を着た桜井伊吹は……シンプルな色とデザインのブレザーな分、少し大人っぽく見えるけど、相変わらずの体育会系な感じ。スカートは今どきの女子高生らしく短くしているのに、裾からスパッツがちらりと覗いている。そしてスポーツブランドのリュックに同じブランドのスニーカー……微妙に残念。これで自転車がマウンテンバイクだったりしたら、がっかりである。
 彼女は私の隣に立つと雑誌を一冊手に取り、パラパラとめくりながら、こちらを見ることなく口を開いた。

「創、最近浮かれてるけどいいの?」
「へ?」
「だから、仕留めなくていいかって話」
「ご心配なく、仕留めました!」
「なんだ、アンタだったの。危うく余計なことするところだったわ」

 何をしようとしてたのかは分からないけど、聞きたいような、聞かない方がいいような。でもこの件もようやく伊吹に報告できて一安心。

「で、どこまでいったの? セッ――」
「うわぁぁぁあああああ!!!」

 とっさに伊吹の口を左手で塞いで、パラ見していた雑誌を右手で戻してコンビニから押し出した。
 なんてことを平気で口走るんですかアナタは!!
 ホントに、この人と付き合うと疲れる……。

「冗談よ、あたしだってまだなのに、先を越されてたまるか」

 店の外。結局何も買わずに出てきてしまい、ちょっと罪悪感もありつつ、彼女が突然妙なことを口走っても困るので、更に端のフェンス側まで押して移動させた。
 なぜか私は肩で息をしている。運動不足かしら? まさか、毎日自転車で通ってるのに。

「そういう伊吹は付き合ってる人とかいるの?」
「うーん、まだ付き合ってはいないけど、野球部のキャプテンとちょっと、ね」
「やっぱ野球なんだ」
「マネやってるわ」
「へぇ」
「割と打率いいから試合出ろとか言われるわ」
「へぇ?」

 マネージャーって、なにやる係り? 試合には出ないけどバット振ってボールは打つの?

「今年の夏、甲子園出るからテレビで試合見てね」
「青木くんもインターハイ? 出るって言ってた」
「……あたし野球の話してんだけど」
「うぅ、でもスポーツはよく分からないよぅ」
「県総体は見に行ったの?」
「いや、その頃はまだ付き合ってなかったし、会場も日にちも知らなかった」
「……最近ってこと?」
「二週間ぐらいになる」

 いろんなことがあった気がするけど、まだそのぐらいしか経ってなかったんだ……。

「昨日は? 創の誕生日だったでしょ?」
「伊吹、青木くんのこと許さないくせによく見てるしよく知ってるよね」
「……付き合い長いから、ついつい視界に入るし、近所の馴染みでやっぱり気になるだけよ。っていうか、あたしの質問に質問で返すとはいい度胸ね」
「ええ、昨日、昨日ね……」

 私に対してだと中学時代によく目撃していたような襲い掛かるなんてことはしてこないけど、どうも彼女の言葉はトゲだらけ。ケガしないうちにフォロー。
 昨日はウチで、私が焼いたケーキを一緒に食べて、プレゼントを渡した、ということだけ話した。
 そうだ、青木くんが帰って間もなくお父さんが帰宅して、階段の上り口のところで会ったってメールにあったんだった。

「これから、創来るんでしょ?」
「あ、うん……」
「あたし居たらアイツいい顔しないでしょ。だから先に帰るわ。また会えるといいわね」
「じゃ、携帯番号とメアド……」
「時間がないわ、また次回ね」

 コンビニ前の交差点で信号待ちをしている青木くんの姿を見つけていた伊吹はシティサイクル型の自転車に乗り、自宅方面へと走り去った。出だしから変速は3のままで。すごい脚力。
 そして入れ違いで青木くんがやってくる。

「いま、桜井いなかった?」
「うん、居たけど帰っちゃった」
「俺どこまで嫌われてんの?」
「さぁ、実はそこまで嫌われてないと思うけど?」
「あれだけ避けられてそれはない」

 と青木くんは言うけど、伊吹は青木くんのことよく見てるみたいよ。浮かれてるって分かるぐらいに。でもきっとイヤな顔するだろうからそれは言わないでおく。
 私は再びコンビニ店内へ。ようやく飲み物をお買い上げ。今日は暖かいミルクティーにしてみた。寒くはないけど喉が渇くほど暑くもないので、冷たい飲み物を五〇〇ミリリットルはまだキツい。
 青木くんはおにぎりと冷たいお茶だ。

「昨日、ほんともう少し遅かったらと思うと恐ろしくてな」
「うん、さすがのお父さんもびっくりだと思うよ」
「こういう場合、どう挨拶すべきなんだろうな」
「娘さんとお付き合いさせていただいております?」
「それな、母親相手だともうちょっと風当り違うと思うんだけど、いきなりラスボだよ?」
「わかるそれ」

 お互いに母親不在につき、保護者イコール父親が出てくるだけに、家に行き来するとしても出会う親が父親とかハードルどれだけ高いの? って話。
 お父さんと日常会話の中で「好きな人とかいないのか?」とか言われてもなんだかイヤだし。まぁないけど。そういう部分ってやっぱ母親が担当なのかな? いないからわからないけど。

「でも、いつまでも黙ってたら付き合いづらいところもあるし、もし偶然、一緒にいる所を目撃でもされたら、とか考えてしまう」
「うん、前にもギリギリ帰宅してきたときもあったし」
「二回目じゃん、昨日で」
「遭遇するのは時間の問題か。でもやっぱりそういう話って自分から親にはしたくないよな……」
「じゃ、バレたらワタワタと弁解しよう」
「うん、その時怒られるなら怒られよう」

 男女交際、親への報告義務は一体……。なるようにしかならない、ということで。
 昨日のこともあるので、さすがにウチに呼ぶなんてことはせず、コンビニ前……というか店の裏側で少々長話をしてからその日は別れることになった。

「テスト勉強、ちゃんとしてる?」
「あー、提出物だけなー」
「ダメだよ、ちゃんとやらないと。義務教育と違って留年だってするんだから」
「まぁ……分かってはいるけどさ……」
「大丈夫よ。青木くんはやればできるタイプだから」

 手を振って、自転車を漕ぎだす。
 そう、目標さえあれば、ちゃんとそれに向かってがんばれる人だから。
 でも、サッカー続けるために入った高校――中学の頃の目標は達成した今、青木くんの次の目標は何?
 私は、変わらず看護師になること。自分にちゃんとできるのか不安はあるけど、やってみないうちから諦めない。あなたにそう自分のやり方を示したから。


  □□□


「あー、つばさんのお弁当、いつもおいしそー、いいなぁー」

 突然ですが、学校で昼食の時間です。
 なにやら『つばささん』と呼ぶと『さ』が二回で言いにくいとのことから、『つばさん』と呼ぶ友達もいる。短髪長身で中学時代はバレー部に所属していたという市外の中学校出身の志乃ちゃんだ。
 一応、食堂もある高校ではあるけど、私は少しでも節約しようと毎日前日の夕飯を少し取り置いて作ったお弁当。朝から全部作ってたらたぶんかなり手抜きになってるだろうけど、夕飯はわりと時間かけて作れるので弁当の見た目は抜群にいい、しかし前日と同じおかずを食べなければならないだけに、楽しみは半分。夕飯の段階で明日の昼食にでも食べたいものにしなくてはいけないハードルの高さ……とか言いつつ、自分が食べたいと思ったものを作っているだけ。

「つばさんちの子になりたいー。毎日おいしいもの食べたいー」
「やだな、大袈裟だよぅ。でも良かったらおかずどうぞ」
「やったー! からあげいただきまーす」

 かわりに友達のお弁当からおかずをひとつもらった。ハンバーグ、冷えてるのに柔らかい。
 みんなのお弁当のサイズも様々で、運動部に所属している子は男子か! ってぐらいの大きさだったり、足りるの? って思うぐらい小さいサイズの子もいる。私は……よくある女性用な二段弁当、少々縦長で細め。
 そういえば、青木くんは毎日、朝コンビニでお弁当買ってお昼食べてるんだっけ?
 何か不憫だな……って思っちゃダメか。作ってあげ……るのはちょっとおせっかいすぎるか。毎日弁当は買ってるだけに、材料代とか気にしてお金払ってくれそうだ。だったら週一ならいいかな? でも朝は会わないし、渡すタイミングもない。結局無理か……でも作ってあげたいなぁ、せっかく料理は得意なのに。部活もしてないから時間は……あ。

「そうか、夕飯に作ってあげたらいいんだ」

 と、うっかり声に出してしまい、何のことだと追求されまくるのであった。

「いやぁ、あのぅ、カレシさんに、お弁当作りたいなぁ、と」
「つばさんいつの間に!!」
「どこで出会ったの?」

 その後も質問攻めで。

「出会いはいずこー!」
「共学じゃないから、校内はまずないな」
「わたし、つばさんなら付き合ってもよかったのに」

 おいおい。
 まだまだ若いんですよ、女子高生ですよ。出会いなんでどこかにありますよ。それこそ突然、中学時代の同級生とか……片恋してた人とか。


 ――今日は、夕飯用のお弁当を買わないでウチに寄ってください。

 と青木くんにメールを送信し、夕飯兼お弁当作りに取り掛かる。
 昨日は鶏のから揚げで、今日の昼食弁当だったので、夕飯はハンバーグにすることにした。しかしこやつ、冷めると油が固まって白くなりおるのじゃ。それが困ってる点。作りたてならジューシーなんだけど、お弁当に入れると固い、油、白い。まだ、真冬じゃないだけましな方なんだけど。
 お弁当用の小さめのハンバーグ。明日の自分用にも作って、青木くんに渡すお弁当には多めに詰める。食べ盛りだろうから。
 肉ばかりじゃなく野菜も入れて、黄色はやっぱり卵で。定番のウインナーはちょっと手を入れてかにさんウインナー。
 何だかとても楽しい、食べてくれる人のことを考えて作るお弁当。
 ごはん、今日はとりあえず白ご飯に黒ごま、梅干しでコンビニ風。
 粗熱がとれる前に青木くんはやってきて、まだ温かいお弁当を渡した。

「さすがに毎日だと青木くんが気を遣うでしょ? だから、たまに作らせてね」

 本当は毎日でも作ってあげたいところなんだけどね、と付け足す。

「ありがとう、すっごい嬉しい」

 照れ混じりの笑顔を浮かべ、お弁当をあったかいって抱きしめてる。
 今日は長居せず青木くんは帰っていった。
 さて、明日から中間考査が始まるので勉強もしとかなければ!
 テストが終われば、また青木くんは部活が始まるから会えなくなっちゃうな……。


  □□□


 三年生が最後の試合になるかもと聞いて、友達と一緒に見に行ったサッカー部の試合、準決勝戦。
 背番号4の青木くんはゴールに近いポジションだった
 対戦相手は市内の中学校――通称『西中』と呼ばれる、最近になってサッカーが強いと言われるようになったという学校だった。
 試合時間は25分ハーフとかなんとかよくわからないんだけど、フィールドの中では選手たちが走り、ボールを追っている。

「この試合に勝ったら、県体出れるんだって」

 そこそこ詳しそうな友達がそう説明してくれる。ケンタイ? 県内の各市の代表戦らしい。それこそ文化部でスポーツに疎い私にはさっぱり分からない。
 しかし、その一勝への壁は分厚く、ずっと攻め込まれている。中でも西中8番がやたらと青木くんとぶつかっていたし、3点も奪って行った。

「ハットトリックだ……」
「はっと、りっく……ん?」

 聞きなれない専門用語。

「試合の中で一人が3点とるやつ。これは……相手が悪すぎる」

 友達が言った通り、その試合は8番を中心に攻め込まれっぱなしで、結局1点も取れずに一時間ぐらいの試合は終了した。
 中学最後の試合……県体への夢は絶たれ、三年は引退する。
 試合終了を知らせるホイッスルと同時に崩れた選手たちの姿は、見ていて辛かった。

 せっかく、高校でもサッカーやるって勉強頑張ってたのに、サッカーがイヤになったりしないかな?

 心配無用だった。

「それとこれとは話が別。勝つチームがあれば負けるチームもあるし、負けたらまた頑張ろうって思うし……まぁ、次は高校だな」

 とても前向きで、安心した。
 負けたからって諦めてたら、いつまでも成長できないもんね。
 彼はずっと、成長し続けている。あの日から、目まぐるしく。


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椿瀬誠
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非公開
職業:
創作屋(リハビリ中)
趣味:
駄文、らくがき、ゲーム
自己紹介:
元々はヘンタイ一次創作野郎です。
絵とか文章とか書きます。
二次もどっぷりはまってしまったときにはやらかします。
なので、(自称)ハイブリッド創作野郎なのです。
しかし近年、スマホMMOにドップリしてしまって創作意欲が湧きません。
ゲームなんかやめてしまえ!

X(ついった)にはよくいますが、ゲーム専用垢になってしまいました。
@M_tsubase

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