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かつてネット小説書いてた人のリハビリ場所

  5☆つばさ


 寂しい……。
 ベッドで一人、ぱたりと倒れる。
 一夜を過ごした部屋……。
 抱きしめられはしたけど、それ以上は何もなくて、少しもどかしい?
 少女マンガの影響受けすぎね。マンガと現実は違うし、人それぞれ。でも……、
 カレシできました!!

 日曜日の午前中、出張に行っていたお父さんが帰ってきたのでダイニングでお出迎え。
 うっかり青木くん泊めてたら大変なことになってたかも、と想像しつつ苦笑い。

「どうした、変な顔して」
「別にー」
「鼻声だな、やっぱり風邪ひいたか?」
「うん、金曜に熱出てたけどもう大丈夫」
「そうか……また悪化させないように暖かくしとけよ」
「はーい」

 自室に戻り、携帯をいじりはじめる。
 ――お父さん帰ってきたー。うっかり泊まってたら大惨事だったかもね(笑
 青木くん宛にメールを送信。
 今日も雨だけど、青木くんは部活休みかしら?
 外は今日も雲ばかりでどんより灰色の空。そろそろカビが生えそうなぐらい雨ばかり。
 でも、少しだけ雨が好きになった。
 メールの受信を知らせる着信音……青木くんからだ。
 ――昨日、引きとめてくれなくてありがとう。助かった。
 そんな返信に鼻で笑ってしまう。
 ――今日は部活お休み?
 ――今日も休み。試合前だったら雨とか関係なく部活あるけどね。
 おや、私やっぱり雨が嫌いかも。
 結局、雨が降って部活が中止になっても、デートするような天気ではない。

 ――雨、キライ!

 やはりそうそう好きになれる相手ではなかった。
 その思いが届いたのか、あの雨は一体何だったのかと思うほど、急に晴れの日が続いた。当然、コンビニで青木くんに会うことはなくなって、メールは毎日やりとりして、電話もしてるのに、不安ばかりが募った。

 私は女子校、青木くんは共学。
 見渡しても同性、周りには異性もいる。
 学校が違う、帰る時間が違う。
 いろいろな違いが、私を不安にさせた。
 お互いに想いを伝えたあの時間は夢だったのかな、なんて現実味もなくなってくる。
 むしろ、その気持ちを知ってしまったから、これまでと変わらない生活が苦しく辛いものになってしまった。価値観とかがらっと変わって、もっと楽しいものになるとどこかで思っていたのに。
 夜、一人布団の中で声を殺して泣いていた。
 一週間で耐えられなくなって、青木くんが帰宅途中ぐらいの時間に電話を掛けた。

『はいはい、どうしたの?』

 すぐにいつもと変わらない口調で出てくれた。
 もう、ガマンできなかった。涙声のまま、想いをぶつける。

「……青木くん、逢いたいよ。寂しくて、悲しくて、辛い……」

 電話口で私は泣き出してしまった。
 きっと青木くん、困ってる。でも、携帯を離さず、彼の言葉を待っていた。

『すぐ行くよ。家にいるの?』
「うん」
『今、コンビニ近くだから、アパートの駐輪場まで出れる? すぐ行くから、待ってて』

 と、電話は切れる。
 泣くのを必死にこらえ、顔を洗いに行って、玄関から出ると階段を駆け下りる。涙がまた頬を伝う。
 駐輪場はアパートの出入り口正面。待っているのももどかしくて、道路の方に出て青木くんの姿を探す。
 人通りも車通りもない、市営アパートにだけ続いている道。
 薄暗いアパートへの道へ入ってくる一台の自転車のライト。私は駆けだしていた。
 私に気付いた青木くんは自転車を降りる。
 もう、何も考えずその胸に飛び込んだ。
 自転車が倒れた。
 逢えて嬉しいはずなのに、涙が止まらな。

「羽山……嬉しいけどここは恥ずかしい。とりあえずアパートの影とか行かない?」

 周りには特に何もない場所ではあるけど、いつアパートの住民が通るか分からない、そんな場所で抱き合っていた。それこそ父がたまたま通りかかったりしたら大変だ。

「ご、ごめんなさい……」

 慌てて離れる。
 青木くんは倒れた自転車を起こして、片手で押しながらアパートの方へ向かう。左手では私の手を引いて。
 アパートの影で、初めてキスをした。

「ごめん、辛い思いさせてたなんて気づかなくて」
「部活があるから逢えないこと分かってるのに、どうしたらいいか分からないぐらい不安になって……」
「電話やメールやってれば大丈夫って考えが甘かった。毎日来るから」
「……でも」
「俺も逢いたいから来るんだ。だから、コンビニのところまで帰ってきたらメールか電話する。用事があって逢えない日があってもいい、明日も、明後日も、毎日来るから」
「うん……」

 青木くんの腕に抱かれ、何度も唇を重ねた。
 どんなにキスをしても、気が済むことなく、むしろどんどん離れたくない気持ちが大きくなる。だけど外が真っ暗になってきたから、そっと離れた。お父さんもそのうち帰ってきてしまう。

「ごめんね、帰るの遅くなっちゃうね」
「俺は別に遅くなっても大丈夫だよ」
「お父さんが帰ってきちゃう……」
「そうだね。また明日、来る前に連絡するから」

 別れ際にもキスをした。
 青木くんの姿が見えなくなって間もなく……一台の車がアパートへの道へ入ってくる。
 嫌な予感がして慌てて部屋へ戻っておよそ五分、父が帰宅した。


  □□□


 私が青木くんのことを好きだと自覚したのはいつだろう?
 小学校は違って、中学校で一緒になった。
 桜井さんとケンカしていたのを見て、ようやく顔と名前が一致した感じ。
 その少し後にあった席替えで同じ班になって、一年生が班単位で地域にある歴史のあるものなどを探索する遠足――地域学習を一緒に回った。運動なんてろくにしたことないから、校区内を徒歩で回るのはけっこうきつかった。
 このときから青木くんとは話すようになったけど、二年では別々のクラスになった。
 夏休み明けにふと気になって青木くんに話しかけたのを桜井さんに目撃されていたようで、このとき絡まれたのが初めての接触。
 一年のときに青木くんとケンカしてるのを見ていただけに、かなり恐ろしい人なのではないかと不安だったけど、話してみると自分に正直なおもしろい子だった。まぁ、手は早いんだけど、乱暴という意味の方で。
 中学三年の間に桜井さんと同じクラスになったことはないけど、何かと青木くんを心配していて、私を使っていろいろと聞き出したり、気遣ったりしていた。
 私は桜井伊吹のパシリか!
 仲直りしたら? とは言ったことあるけど、断固許さん! の一点張りだった。

 三年になってまた青木くんと同じクラスになって、また話すことは増えたけど、どうもこの歳になって異性と親しく話していると、「付き合ってるのか」とか「好きなのか」ってすぐにからかわれるのが妙にイヤだった。
 青木くんはそういうのを気にせずに、他の女子とも話すし男子からそれを妬まれることも特になく、クラスのムードメーカー的な立ち位置にいたように思う。
 修学旅行では別の班だった。
 集合時間にふと、青木くんの班を見て、楽しげに班員と話していて……自分もあそこにいたかったと思った、このとき好きなんだと自覚した。
 だからその前からきっと、そういう風に思っていた。
 からかわれるのがイヤだからって、昼休みや放課後に二人きりで進学のことや家のことなどを話していたから。唯一の共通点、誰にも侵されたくない領域。

 本当は、夢なんて後回しにして同じ高校に進学したいとも思ってた。
 でも、夢の話をしてしまった後だから、もう、それだけはできなかった。
 私は看護科に、夢へと進むしかなかった。
 進むからには衛生看護科から専攻科、五年一貫――三年目で准看護師の試験は受けれないけど最短で正看護師の試験を受けれる、一番夢に近いルートを選んだ。

「いいの? それで」

 二学期最後の日。三階、特別棟への渡り廊下。午前で本日の日程を終えて昼前の放課後。帰ろうとしていたところ捕まって連れてこられた渡り廊下。最上階ゆえに柵はあっても屋根はなく、壁も当然ないので冬独特の冷たい北風にさらされてただただ寒い。横にいる桜井伊吹は私の卒業後の進路について聞くだけ聞いて、つまらなそうにそう言った。

「アンタの夢はわかったけど、青春はどこよ。白球おいかけてごらんなさい」
「野球はちょっと……だから羽山ですってば」
「じゃぁダイスキなサッカーボールでも追いかけてみる?」
「別にサッカーも好きというほどでもないし、スポーツは……」
「ふん、つまんない。ま、安心して。創がウワキしないかしっかり見張っといてあげるから」
「別に付き合ってないよぅ」

 真実を言ってるのに、なぜか桜井さんは口をへの字にして横目で私を見る。

「あたし、創と同じ中央高校行くの、羨ましいでしょ?」
「うっ……」

 ド直球である。何に対しても彼女に遠慮というものはない。
 この人にはどうやら私が青木くんを好きだってこと、見抜かれているようだ。

「強いのよ野球部。甲子園常連で。サッカー部なんかぶっ潰してやるわ」
「サッカーも常連って聞いたよ」
「知ってる」

 桜井さんが学校一緒なら、卒業後も会ったときに情報ぐらいは入ってくるかな。
 やっぱり、卒業して離れ離れっていうのは寂しい。中学の三年なんてあっという間で……心残りばかりだ。もっとこの学年メンバーで、学校生活を送りたかった。
 今日で二学期は終わってしまった。残る中学生活は三学期……いよいよ自分の進路を決める入試本番。出願、入試、合格発表、入学手続き、卒業、仮入学……高校への道に至る、すべてが詰まっている感じ。そして四月になったら、環境ががらっと変わる

「告白すれば?」
「ななな、なにををを!!!」
「浮かれて見事に落ちるかもね」
「ひどいぃぃ」

 落ちる、こける、滑るは受験生には禁句だよー、縁起悪い。

「桜井さん、もう帰ろう、寒い」
「伊吹よ」
「……伊吹……ちゃん?」
「じゃ、よいお年を、つばさ」
「あ、うん……よいお年を」

 教室のある校舎へと入っていく桜井さん――伊吹。
 いつもアンタって言うから私にはそこまで興味ないんだと思ってたのに、ちゃんと名前、知ってたんだ。
 彼女は男子でも女子でも、誰とでも話すし、特定の誰かとだけつるんでる方でもない。どこか恐れられていて、近付き難い部分もあって、なのに嫌われている訳でもないし、意外とお人よし。全くもってよく分からない人だ。
 ビューっと強めの風が吹き付けてくる。それでなくても痛いぐらいに冷えてる顔も指先も足も。帰ろうとしていたところで連れて来られたので防寒はしっかりしてるけど……これは雪でも降るのではないかという気温。
 早く帰ってストーブで温まろう。昼食取った後は受験勉強。いくら推薦が決まったとはいえ、油断はできない。
 小走りで校舎に入ると、風がない分暖かく感じる。
 もう誰もいなくなってしまった二学期最終日の放課後……廊下を歩く足音は私ひとり。
 卒業まで、もうそんなに残されていないんだと心の奥で寂しく感じた。

「ささやんありがと。また来年ねー、といいつつ明日来るかもだけど」

 生徒玄関へ向かうところで職員室の方からそんな男子の声。
 プリント束を抱えた青木くんだった。

「自分でできるようになれ」
「できないから教えてもらいに来るんじゃん。むしろうちに毎日来てよ」
「オレはこれからが忙しいんだよ」

 ささやんはクラス担任であり数学担当の男性教諭、笹本先生のあだ名……というか、先生と仲のいい生徒がそう呼んでいる。
 この風景から察すると、青木くんはずいぶん勉強を頑張っていることがわかる。
 気付かなかったふりをして、玄関で靴を履き替える。スリッパは……みんな置いて帰ってるみたいだから私も置いて帰ろう。
 玄関を出ると、ちらちらと白い綿のようなものが降っている。

「うわー雪だー。通りで寒いわけだ」

 声がした方を振り返ると、青木くんが靴を履き替えている。

「何やってんだ羽山。寒くない?」
「単に今帰りなだけですが」
「え? 早くに教室出てなかったっけ?」
「途中で友達に捕まってたの」
「へぇ。そのお友達の姿がないようだけど」
「話が終わったら、私を置いてさっさと帰っていったよ」
「何かひどくない?」
「そういう人だから気にしてない」

 桜井みたいなヤツが他にもいるんだな、と呟いていたけど、そこはあえて突っ込まないでおく。まさにその人でしかないし。

「勉強は順調?」
「うん、まぁ、そこそこ。最近は過去問やってるんだ」

 と、先ほど職員室で先生から受け取ったものだと思われるプリント束を見せてくる。
 あれは公立の過去問題だったんだ。そこまで真剣に受験勉強に取り組むなんて、一年前は思わなかった。私が言った余計なことは、彼にとってちゃんとプラスになったことは喜ばしいことだ。きっとこれなら、来月の私立入試は大丈夫なはず。だけど私立の合格発表で油断して公立試験に向けた勉強が思ったように進まなくなったりしないかな? 誘惑だらけの二月。入試が三月だからといって、油断してはいけない期間。
 この一年で中央高校を目標に成績を伸ばしてきた人だ。そのぐらい大丈夫だよね。
 手を付けないうちからめんどくさいとか言ってたくせに、すごい努力家なんだ。

「休み中も頑張ってね」
「ああ、羽山の風邪ひかないようにな」
「うん、それじゃぁ……」
「……そういえば自転車か」

 って玄関前で別れるような会話を交わしても、同じ自転車通学組なので結局駐輪場まで一緒に行くことになるというなんとも言えない気まずさよ。
 そして雪を体の前で浴びながら自転車で走ること十数分で自宅アパートへと到着。外とたいして変わらない室温の部屋に、真っ先にファンヒーターの電源を入れた。

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椿瀬誠
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性別:
非公開
職業:
創作屋(リハビリ中)
趣味:
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自己紹介:
元々はヘンタイ一次創作野郎です。
絵とか文章とか書きます。
二次もどっぷりはまってしまったときにはやらかします。
なので、(自称)ハイブリッド創作野郎なのです。
しかし近年、スマホMMOにドップリしてしまって創作意欲が湧きません。
ゲームなんかやめてしまえ!

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