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かつてネット小説書いてた人のリハビリ場所

  14★そう


 ――四日前。
 部活帰り。普段は行かない通学路を少し外れたところにあるドラッグストアにて、怪しく店内を見回す男子高校生。別に万引きしようというのではないので捕まえないでください。
 それがどの売り場に該当するのか謎なので、陳列棚一列ずつ見て回っていると、自分には全く関係がないベビー用品の向かい側に目的のブツを発見。確かにベビーの関連だ、奥が深い陳列マジック。無事に見つけたことで辺りを少し見回し警戒態勢。よし、誰もいない。
 さてと……どれがナニでなにが何だ?
 なぜか品ぞろえがいいのかこれがデフォルトなのか分からないが、幅1メートル、高さ150センチほどの棚の三分の一もその商品があるんですけど。しかも視線のちょっと下あたりでずらりときれいに陳列されている。一箱でも抜けたら目立ちそう。
 値段も千円でお釣りがくるものからオーバーするものまで。とにかく薄さを強調したような数字が入ったものが目立つ。
 どこを重視して選べばいいのかなんて当然知るわけがなく、結局その日は手に取り損ね、買う予定になかった掃除用品と菓子とジュースを持ってレジを通過したいくじなし。
 また明日あのコーナーをうろうろして買いそびれて、明後日また店内うろついて挙動不審なことしたらさすがに声掛けられそうな気がするので、一日あけるとしよう。一回休み。

 ちょっと、意識しすぎだろうか。
 いや、あれだけのこと言って丸腰というわけには。もしかしたら困るでしょう。
 それにいつかは通る道だと思うし……。
 とにかく自分が一番信用できない。
 と、頭の中はごちゃごちゃ。
 今日みたいに、いくじなしなら心配はしやしないんだけど。
 お互いたまに、とんでも行動しちゃうから。
 土曜、羽山がうちに泊まりに来るなら、それなりの覚悟をしてくるということ。だから俺も、それなりに覚悟をしておかなければならない。
 来ないなら来ないでそれも仕方ない。あんな言い方したんだから構えて当然。
 右も左も分からないくせに、よくそこまで言った、あとは知らんぞ。どうにでもなれ? なんとかなるさ。
 ごちゃごちゃごちゃ……。
 帰宅後、掃除をしつつもごちゃごちゃ考えてしまった。
 さて、あれはどうやって買うべきかな。もう、勢いしかあるまい。いや、種類が、どれを、ぐおお!!
 ああ、布団が、ほこりがすごい、叩いても叩いてもキリがない!!
 これ……いつまで叩いたらいい?
 ご近所さんごめんなさい、バンバン音立てて。家が建ち並ぶ団地で、布団を叩く音がこだまする、主婦がくつろぐお昼のワイドショータイム。



 ――三日前。
 午前中、野球部が最後の追い込みみたいな感じで練習しているのを横目にトレーニングをしていたサッカー部。ゆっくり休むとか出発前準備だとかで野球部が午前いっぱいで部活を切り上げたので、急きょ午後から練習になった。
 学校近くのコンビニで昼食を調達し、体育館裏の涼しいところで食べて、試合以来初の本格的な部活動だ。
 羽山と遊ぶ約束してなくて良かった。
 全面練習ということで、後半は試合形式。現レギュラー陣VSそれ以外軍団。
 当然俺はそれ以外軍団のキーパーで、現レギュラーに攻め込まれるわ攻め込まれるわ、ひどい有様だった。

「――先輩、がら空き、あー違うって、あっち!!」

 なんて大袈裟な手振りで一年な俺の指示がそうそう通るわけもなく、がら空きになってるMFにパスが通り、ゴールネットが揺れるところだが、どうにかキャッチ。がら空きだったからこそ見えたパスからのボレー。
 それ以外軍団、どうもボール持ってる敵FW追いかけすぎ。どうにかボールを奪おうとしているのは分かるけど、テクニックが足りてない。
 と、偉そうな分析はしているけど、俺がDFに戻ったところであれをどうにかできる気はしない。
 そして試合終了。結果は0-0。
 どうにか得点は許さなかったが、ボール支配率やシュート本数が……ひどい。
 現レギュキーパーなんかもう、試合途中からゴール前に寝そべるというぐらいの態度でしたよ。
 もう……今日の練習、全面じゃなくて半面でもできたんじゃね? ってぐらいだった。そのぐらいひどい有様ですよ。
 これじゃ、来年度は大会優勝……県代表は無理かな……。現レギュラーのいないチームが最弱すぎた、俺も含め。

「動き、良くなったんじゃないのあおちゃん」

 とレギュラーズFWの山野先輩に声を掛けられ、頭の上にクエスチョンマークが数個出てくる。

「挫折したくなるぐらい容赦なくゴールに叩き込んでやろうと思ってたのに、全部止められるとは思わなかった。シュート打ったのはオレだけじゃないけど」
「あ、はい。ありがとうございます」
「問題はあいつらだな」

 と、すでに罰ゲームが始まっている中央部。レギュラーズの罵声を浴びながら、試合に出ていたそれ以外ーズが腕立てをしていた。

「次、ふっきーん!」

 やけっぽい返事をして次は腹筋。
 俺も負けたチームなので、罰ゲームに参加しなければいけないはず、と思ってそっちへ行こうとしたのだが、山野先輩に呼び止められた。

「お前はいいよ。かわりに、PK地獄だから」

 地獄……もはや嫌な予感通り越した。

「同点で試合終了してるから、本来なら延長もやって、それでも決まらなければPKだ。試合ではタイミングが合わずうまくボールが入らなかったり、味方が妨害したりで運よく得点にならなかった。しかしPKは一対一」

 言いたいことはなんとなく分かる。これは罰ゲームというよりは、試合の延長って感じでもあるし、俺の実力を試されるということ。
 障害のない万全の状態から、ゴールだけを狙って打たれるボールをどこまで読んで、どう動くか。
 読みすぎるとだめ、一瞬の判断の遅れやミスは命取り。
 野生のカンか、それはひどいな。
 置いたボールから左右どっちかに下がるやつは利き足がどっちか分かりやすい。
 山野先輩は……こちらから見てボールより右後ろに下がっている。利き足は右だ。
 力みすぎてボールが浮いてゴールをそれたら儲けもん。
 PKはボールが取れなくても、ゴールにはいらなければいい。こぼれ球を叩き込まれる心配も、敵味方が突っ込んでくる心配もない。
 助走をつけ、ボールが蹴られる。体の向きはほぼ正面。蹴り損ねでもない限り左に入ることはない、右だ!
 ボールが通るであろう予想軌道に手を、違う、低い、足だ!
 とっさに足を伸ばす。
 何がどうなったかよくわからない恰好で、地面に落ちる。
 ボールは、どうにか足にかすったものの、ゴールネット内。

「はい、もう一回」

 止めれなかったから笑顔だよこの人、なんかムカツク!
 ボールを先輩に戻し、ゴール真ん中に構える。

「お願いします!」

 結局、読み違いが多くてどっかんどっかんゴールに叩き込まれた。
 さすがに50回中5本しか止めれないとか役に立たなさすぎる。絶望。

「そんなに落ち込むなよ八割はボール触ってたじゃん」
「取れなきゃ意味ないでしょ」
「PKで全部取るキーパーなんて恐ろしいわ」
「まぁ、見たことはない、ですけど……」

 そんな感じで、俺の罰ゲームも終わった。
 今日は予定外の部活延長で疲れてしまった。
 夕飯と朝食を買ったら帰って横になっとこう。



 ふと目覚めたら外は真っ暗、夜中だった。



 ――二日前。
 伊吹ら中央高校野球部が甲子園へ向かう日。
 前日の午後練は日差しがキツかったので、午前の練習。今日も当然全面。
 昨日に引き続き、試合形式の練習だった。
 今日の対決はバランスよく、レギュラーではない部員を半分にして、足りない分はレギュラーが交代しながら入るという構成。
 ボールの回し方がどうもヘタクソで、なかなかどちらのゴールにもシュートを打ち込まれることなく前半終了。
 やはりこのチーム構成での練習不足のせいか? 我が部の得点王がいるチームであってもなかなかゴールにまでたどり着かない。
 これ、現レギュラー三年が引退したら、大変なことになるだろうな。としか思えない。俺もキーパーはじめてまだ四ヶ月だし。来年、キーパー入ってきたらフィールドプレイヤーに戻してもらおう、そうしよう。俺にはこのポジション合わない、きっと。
 ふと気付けば目の前で繰り広げられているボール争奪戦。そして、
 ――ボールがまっすぐ、顔面に向かって飛んできてる。

「……っぶね」

 思わず避けた。ということは?

「誰が避けろっつったぁあああ!! 顔面で受けてでも止めろ!!」

 はい、相手チームに点が入りました、すみません。
 でも顔面はいくらなんでも無理。

 その一点のせいで俺の属するチームBは負けまして、罰ゲームは恐怖のPK地獄。
 ゴールへ打ち込まれるボールの勢いからはすごい殺気を感じた。
 今回のはホントに俺が悪い。油断しまくってた、他のこと考えてた。
 そして、ゴールに入ったボールの数だけ、ゴールポスト懸垂。
 めちゃくちゃムキムキになっちゃう……。その前に明日は肩回りと腕が筋肉痛かもしれない。


「お疲れ様でしたー」

 練習が終わり、一年が上級生を部室から送り出す。
 部室はスプレー鎮痛消炎剤臭い。犯人は俺、先輩に脱がされてぶっかけられた。
 一年は部室をざっと掃き掃除をしてから帰る。

「おつかれー」
「また明日なー」

 一年も自転車置き場にて解散。自転車に乗ってると、鎮痛剤のスースーする感じが目に染みる。
 昼飯何にしよう、ざるそばがいいな今日は……。
 あと、何か……何か重要なものを忘れて……。

「あ」

 疲れすぎててうっかり忘れるとこだった。
 もう、今日か明日かしかないのに。今日避けたら明日しかない。ならば明日の俺の為に今日こそ!
 と、通学路から外れて二日前にも来たドラッグストアへ。


 店から出て来た俺は、濃い色の紙袋を持っている。
 店内で挙動不審になること十分ぐらい。店員に捕まることも声掛けされることもなく購入には成功した。
 俺は大人になったぞ! 気分だけな。
 けど、二度と来れないこの店!!

 逃げるように自転車を漕ぎだす。いつもの通学路へ戻り、いざ帰宅。
 コンビニでざるそば買おうと思って寄ったらすでに弁当らしきものが売り切れており、仕方なくここから一番近いスーパーまで来た道を戻った。
 お惣菜コーナは3割引き、半額のシールがついていて何だかお買い得? たまには違ったものを食べれるし、スーパーもいいかな。



 ――当日。

「いってらっしゃい」

 朝、もう出ると声を掛けられたので、あくびをしつつ階段を降り、社員旅行へ行く父を玄関でお見送り。
 すでにいい時間なのでそのまま朝食から部活の準備。飲み物は……行く途中でコンビニに寄って2リットルのスポドリを買う。

 夏の高校野球は本日、甲子園で開会式?
 この日も午前活動、試合形式。
 俺はとにかくゴールの前。
 ああ、走ってボール追いたい。敵ゴール近くに行かれるとものすごくヒマというか、それでもここから離れてボール触りにいく訳にもいかないし、なんだろうねこれ。
 肩や腕は微妙に筋肉痛。動かすと痛むがイヤな痛みではない。痛気持ちいいというか、いや、マゾじゃなくて。

「グローブ焼けが……」

 休憩中、日陰でグローブを外した手を見つめる。
 左右対称にグローブをしているところだけ白い。だけならまだいいんだが、半そでで練習しているせいで腕から手首付近までが焼けているという不思議カラー。
 まぁ、野球やってた時よりこれはいいと思わなければ。
 え、いいのか? 露出してる分、涼しいかもしれんが足も変な焼け方してるじゃないか。
 しかし暑くてもインナー長袖にしとくべきだったかと後悔したが、まぁ、電気消しとけば見えないか……。

 ――ガッ!!
 痛い!

 雑念払おうと地面を殴ったが痛かった。
 気が早いぞ俺。まだ部活中なんだから部活に集中しろ! それに突然来られなくなったとかあるかもしれないだろう。過剰な期待は思い通りにならなかったときの絶望に繋がる。


「ボールはキャッチしたらぐっと抱きしめて離さない。こぼしたらぶち込まれるぞ」
「はい」

 休憩が終わると正キーパー直々の個別指導。
 ゴール前に立たされ、ポンポン投げ込まれるボールを一心不乱にキャッチ、またはパンチ、とにかくゴールを守る。

「あと、各方面から突っ込んでくることあるから、身を守るようにこう……」

 まぁ、口で説明するよりやってみろってことで、転がされたボールに飛びついて自分に引き寄せ、体を丸める、感じ。たとえ体ごと蹴っ飛ばされても、ボールだけは!! ぐらいの勢い。
 フィールドプレイヤーに比べたら地味なポジションだな、としか思ってなかったが、練習方法は全然違うし、試合でもそう目立たないけど……フィールドに一人しかいない特殊なポジションだと思ったら何だかカッコイイかなって思えるようになってきた。

「守護神」

 ぼそりと呟く。何と言っても、このゴールキーパーの俗称がたまらんカッコイイ。
 正キーパーとなれば背番号は1。

「青木は守護神というよりザルだな」
「うきー!?」
「そりゃサル。まだまだってこと」

 まぁ、キーパー初心者ですからまだまだですね。
 そして昼で練習は終わり、明日は部活もお休み。ゆっくり休む――カッ!!
 帰ろう、とりあえず。
 今日もスーパーで昼ごはんを調達。しかし、毎日のように行っていたのがあまりコンビニに通わなくなったら店員さんに来なくなったなとか思われるだろうか? 気にしていては毎日同じ弁当になってしまう、ここはローテーションということで、とどうでもいい弁当事情。
 さて、羽山が来るとしたら何時ぐらいだろうか。三時ぐらいか? 夕飯がどうこう言ってたから買い物とかあるかもしれないし。
 コンビニを通り過ぎ、中学校を過ぎる。更に自宅方向へ走っていくと小学校があって……ここで携帯が鳴っていることに気付いて自転車を止めた。電話の相手は羽山だ。さて、来るのか来ないのか……。

「家の場所、分からないんだけど」

 ということは、来るのか……。色々と間が持つか心配なんだけど。

「ああそうだね。今どこ?」
「まだアパートの前だけど」

 ということは、だいたい中間にあたる場所で待ち合わせをすべきだろう。なのでコンビニよりウチ寄りで、

「じゃ、中学校の正門のとこで待ってて、迎えに行くから」

 電話を切って自転車の向きを変え、来た道をまた戻り、羽山を迎えに行った。
 中学校の正門前ですでに待っていた羽山を連れ、少しゆっくりめで走る自宅へ向かう田舎道。いつもは一人だから少し変な気分だ。
 そして走ること十分弱、ようやく自宅まで帰ってきた。
 ドアを開けて羽山の方を向くと……妙に目が輝いていた。

「突撃! おうち拝見」

 そしてすぐ我に返る。
 そんなに楽しみにしてたのか? 変な期待しちゃうよ俺が。

「ちが、いや、一戸建て珍しいというか、ひとんち好きっていうのか、そんな感じで」
「……ウチは住宅展示場じゃないよ」
「ああ、住宅展示場パラダイス!」

 ああなんだ、アパート住まいゆえの一戸建てが珍しくてテンション上がっちゃうタイプか。やたら二階に上がりたがるんだ、そういうタイプ。

 それからどうもぎこちない会話をして、夕飯の買い出しに行って、夕飯作ってもらって……。夕飯にリクエストしたのはカレー。母がいなくなって以来、家で手作りのカレーなんて食べたことがなかったから。
 でも味は、羽山のカレーもおいしいけど、母が作ってくれていたものとは全然違った。作り方は単純で、材料だって変わりないはずなのに、何がその差になったのか全くわからないが、大皿三杯頂きました、ごちそうさまでした。

 羽山が風呂に入っている間、テレビでは甲子園がどうのこうのとやっていた。
 一年目にして念願の甲子園へ行けて、伊吹は感動して泣いているであろう。そういうタイプには見えないヤツだが、高校野球と甲子園は特別な思いがあったみたいだし、マンガの影響で。
 座卓に置いたままの携帯が鳴る。思わず自分のを開いて確認するが、あの着信音は俺のものではない。羽山がココに置いて行った携帯のサブディスプレイが文字を表示している。

 →✉ 桜井伊吹

 ……早速ご報告ってところか。たぶんこれまでに何度も野球を熱く語ったメールが届いたんだろうな、と思うと羽山に申し訳ない気がしてくる。
 羽山が風呂から上がって確認したら、メールに添付されていた写真の伊吹はやはり泣いていたようだ。



 そして、俺は風呂の浴槽に浸かったまま、固まっていた。
 思考はどうも断片的。うまく物事を考えられなくなっている。
 そうだ、まず頭を洗って、身体も洗って……いや、さっき洗ったし、もう何分浸かってるんだっけ?
 ……。
 ああ、着替え持ってくるの忘れた。まぁ、下だけ穿いて探しに行こう。
 …………。
 掃除、してから上がった方が、いやいや、後で入るかも? じゃ、このままでいいか。
 ………………。
 長く入ってる理由はないな、変にどこか(バックグラウンド)で考えすぎててメモリ足りてない。
 上がろう、じゃないとそのうちのぼせる。
 パンツだけは洗面所のタンスにあった。ハーフパンツはさっきまで穿いてたやつ、あとで着替えるけどとりあえず今は仮で。他はいつも干したあとに取り込んだものが山積みになってる中からの発掘。父の部屋の隣の部屋にてんこ盛りだ。
 いつもならダイニング経由でその部屋に行くところだが、今日は父の部屋から回って……いけないだと!?
 なぜ続きの部屋になってるのに襖の所にテレビとか置いて塞いだんだよ! つーか、めちゃくちゃ汚い。俺の部屋より汚い。ビール缶がごろごろ、つまみのごみがあっちこっち。何か変な臭いする。
 不快すぎてすぐ出てドア閉める。
 仕方あるまい、ダイニング経由で……。

「あ……ひゃぁー、あれ?」

 羽山に二度見される。なんとなくその理由が分かってイヤだ。

「服着てるのかと思ったら見事な日焼けですね……」

 一生懸命顔を逸らしつつそんなことを言われる。思った通りだ。

「頑張ってますからね、部活」

 個人的には夏の方が好きなのだが、この想定外のグローブ焼けを見てしまうと早く冬になってほしいと思ってしまうだけに、とてつもなく残念なことだが、この日焼けのせいでとてもプールや海に行く気にはなれない。
 ダイニングと父の部屋の間にある服置き場的な部屋で、山になってる洗濯物から自分のTシャツを探す。できるだけ良さそうなやつ。下も穿き替えねば、ということで、着替えを持って再び洗面所へ戻り、脱いだものは洗濯機へ放り込んだ。


 その後、ダイニングでテレビを見てるだけ。座っている位置の微妙な距離感。
 ゴールデンタイムのバラエティ番組を並んで黙って見てるとかどういうことだろう。
 ……まぁ、先日の海といい昼間のアレといい、俺に寄って来たらだいたいエロいことされるからな、さすがに警戒されてるのか。
 と言って俺から寄っていって体引かれたら落ち込むわ……。
 やっぱ、まだ早いのかな。今日はおとなしくしておくべきなのか? この状況からだと、とてもそういう雰囲気に持って行ける自信がない。
 下手なことして嫌われでもしたら本末転倒。

「アイスでも食べようか」

 いいタイミングで思い出したので、とりあえずは頭冷やそう。
 部屋の室温はぬるい。扇風機の風が当たっているだけ。

「チョコクッキーやストロベリーも好きだけど、やっぱりバニラが一番好きかなー」
「俺はバニラならチョコ入ってるやつかな。チョコ味じゃなくて」

 カップのバニラアイスのおかげで、どうにか会話に繋がった。

「かき氷は何味派?」
「イチゴの練乳掛け」
「王道だね。私、レモンが好きなんだけど、これあたりはずれがあってね……」

 と語りだす。甘めのはちみつレモンっぽい方が好きらしい。ハズレは水っぽいとか……蜜の量が少ないだけじゃないのか?

「じゃ、夏祭り行こう。まだ終わってなかったよな。いつだっけ?」
「今日と明日だよ」
「今日? 言ってくれたら良かったのに……」
「明日でもいいよぅ」

 ドキっとした。
 心臓止まるかと思った。
 口から出るかと思った。

 バラエティ番組は終わり、次は洋画やドラマが始まる時間だ。

「洋画かドラマ、見る?」

 心臓は苦しいぐらいに鼓動が早い。
 羽山は視線を下に向けたまま首を横に振った。

「じゃ……部屋行こうか」

 全身がしびれるような感覚に襲われる。
 羽山はゆっくりと首を縦に振った。

「……うん」

 一瞬、頭の中が真っ白になったがすぐに呼び戻す。
 扇風機を消す、廊下の電気をつけ、ダイニングの電気を消す。階段の電気をつけ、玄関のカギを閉めて、廊下の電気を消し、階段を上がる。部屋の電気をつけて布団を敷き、階段の電気を消して、ドアを閉めた。
 部屋に二人立ったまま、異様な空気。
 これをどう変えるのか、浮かんではこない。
 とりあえずは向き合うことから……。

 参考にと思って体験談をネットで読み漁った。知識は、全くないという訳ではないと思う程度。
 焦りは禁物。大切なものを扱うように、大事に、丁寧に……。
 まずはそういう雰囲気に……。
 抱きしめて、キスをして、彼女の反応をみつつ深く。首筋は期待以上の感度で、必死に声を抑え、身体を震わせている姿がたまらない。
 しかし、しつこくその反応を楽しんでいると、

「もう、やだぁ。電気消してぇ」

 ここで足踏みしてる場合ではなかった。先へ進もう。
 初めて触れた彼女の身体は、柔らかくて……。

「優しくできなかったら、ごめんね」

 ――苦戦と快楽。


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プロフィール
HN:
椿瀬誠
HP:
性別:
非公開
職業:
創作屋(リハビリ中)
趣味:
駄文、らくがき、ゲーム
自己紹介:
元々はヘンタイ一次創作野郎です。
絵とか文章とか書きます。
二次もどっぷりはまってしまったときにはやらかします。
なので、(自称)ハイブリッド創作野郎なのです。
しかし近年、スマホMMOにドップリしてしまって創作意欲が湧きません。
ゲームなんかやめてしまえ!

X(ついった)にはよくいますが、ゲーム専用垢になってしまいました。
@M_tsubase

言うほど呟かないSNS
【たいっつー】
@tsubase341

【Bluesky】
@mtsubase341


サイトは、更新する手段がなくなってしまったため、放置になっております。
修正しようがない量なので、あれはなかったことにしてください。
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