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かつてネット小説書いてた人のリハビリ場所

  12★そう


「あのさ、明日も部活休みだから……」
「じゃ、ウチに来てよ」
「え?」

 どうやって父さんの社員旅行の件を切り出そうかって悩んでたのに、あっさり「ウチに来て」なんて言う羽山に唖然としてしまう。

「大丈夫だよぅ、月曜だからお父さん仕事でいないから」
「あ、ああ……」

 まぁ、学生は夏休みでも明日は平日だし、社会人は仕事で当然。

「ご飯、ごちそうしてあげる。何が食べたい?」

 何が食べたい?!!
 そりゃ、まぁ……アレだ。
 そろそろ、なぁ、いいかな? 忘れられない夏の体験が過りまくるわけだ。
 そのせいで羽山との会話がおろそかになってしまった気がしてならない。もしくは感づかれたりしたかも、と。

「今日は楽しかった。ありがとう」
「ああ、うん。俺も楽しかった」
「明日は楽しみにしてて」
「うん、起きたらメールする」

 その心配はなさそうかな。
 この辺りが男と女の違いなのか? 意識すると反応するヤツがいるんだよ。上手に付き合っていかないとなぁ、一生ついているモノだけに。

 とりあえずはだ……キスプリをどこかに隠しておきたい。財布は毎日使うものだし、危険がいっぱいだからな。
 誰も触らない、絶対忘れない、捨てないところ……ってどこだ?

 明日は羽山んちで昼ごはん……ホントはご飯よりも、羽山が欲しい。
 と、悶々として落ち着かなかったし、今日は楽しかったし……いろいろ考えてたらなかなか寝付けなくて、朝飛び起きて真っ青だ。

「ごめん、寝過ごした! 準備したら行くから!」

 慌てて羽山に電話する。
 起きたらメールするのはずがそれどころではなくなってた。



「試合終わったばかりだし、もしかして明日も部活休みとか?」

 そんなに一緒にいたいのかな? 俺もそうだけど……そろそろそれだけじゃ物足りないっていうか、先を望んでるっていうか……。

「だったら明日もご飯食べに来る?」

 ご飯より、羽山をおいしくいただきたい、というのが本音。いやもしかしてこれ、誘われてる?

「……据え膳?」
「……ん?」

 あ、違うわこれ。やっぱり羽山はこういうのにはウトい。ものすごくウトそう。
 故に、

「……押し倒したいね」

 めちゃくちゃにしてしまいたくなる。
 無防備で、何も知らなさそうで……男はみんなケダモノなのに、羽山は純粋で……。

「据え膳食わぬは男の恥って知ってる?」
「据え膳、食わぬ……? お口に合いませんか?」
「据え膳食わぬは男の恥! 辞書!」
「ひぃ!」
「襲うよホント……」

 かわいすぎる……。
 辞書には載ってなかったから、携帯で検索してようやくその意味を知った彼女は顔をみるみる赤く染めた。
 気付いているときこそ、あの話をするチャンス。ようやく到来。

「……そういう話の流れだからアレなんだけど、土曜、オヤジが社員旅行でいないから……ウチに泊まりに来ないか?」

 それに含まれている内容に気付いたのかまだ気付いていないのかは分からない。だからしつこいぐらいに念押しもしておく。

「……ほんっとによぉぉぉく考えてから来て。ほいほい気軽に来ないで。むしろ、そこそこそれなりの覚悟とかしてから、来る気があるなら来て。まぁどうなるか分からないけど、万が一ってこともあるからどうとも言えないし。いや、来てほしくないなら誘わないよ。そりゃ来てほしいけど、なんというか、健全に過ごせる自信はないし、だから、そういうことで……」

 もし来たら……と、俺も覚悟をしなければならない。何が起こるか予測できないし、泣かせることになるかもしれない。嫌われないとも言い切れない。何の経験もないくせに求めるんだから、失敗するかもしれない。うまく誘えないかもしれないし……。まだ早いと言うのならそれでもいい。

「すぐに行きたいって返事したいところだけど……ちゃんと考えとくね」

 頬を染め、柔らかく微笑む。
 あの表情から察すると、理解してくれている。
 けど、どういうことが起こるのか想像してしまったのだろう。

「きゃぁぁぁ」

 真っ赤な顔を両手でおさえ、かわいい悲鳴を上げていた。


 昼食後は海へ出掛けた。泳ぎに行くというよりは散歩気分ではあったのだが、雲一つない晴天……あまりの暑さにテトラポットの影へ避難した。
 結局、外にいてもウチに引きこもっても結果は同じだったのかもしれない。
 キスが次第にエスカレートしたのは暑さのせいにして……。
 首筋に唇を這わすと、身体を震わせてせつなげな声を上げるから、それを聞きたくて夢中になる。

「やぁ……ん……」

 感度良好か? 期待しちゃうよこれは。
 少し下がって鎖骨に口づけ、そこから更に下がって……。
 羽山の心臓の音が、俺と同じですごく早い。
 胸の大きさに関しては、大きすぎず小さすぎず、と言ったところか。まだ触ってませんよ、かなりの至近距離で洋服越しに見た感じの感想で……。
 ……いかん、寄りすぎか。つい調子に乗って場所も構わずやりすぎてしまった。しかし、野外でなかったらこうやって我に返ることはなかったかもしれない

「すまん、やりすぎた……」

 と離れるが、羽山に反応がない。目は開いてるし呼吸はしてるけど顔は真っ赤。惚けてる?
 俺は暑いのとか少々慣れてるけど、熱中症でぼんやりしてきてたりしない?

「ちょっと、大丈夫? 熱中症?」
「……違う、だいじょうぶ……だけど」
「だけど?」
「刺激が強すぎだよぅ……」

 あ、ああ……。つい夢中になった俺のせいか。

「すみません」

 あの話を切り出したせいか、どうも抑えが効かなくなってるような……。
 とは言ってもやっぱり暑い野外に長時間いるのは俺の理性より熱中症の方が心配だ。

「やっぱ暑い? 帰る?」
「コンビニにアイスでも買いに行こう、そうしよう!」

 と、羽山はささっと立って自転車の方へ行ってしまう。
 ……顔、まだ真っ赤だよ、ホント大丈夫かって俺のせいか。
 それを黙って追って、少し後ろを歩いた。


 そして飽きもせずいつものコンビニ三叉路店。市内でも端っこの田舎地域、数年前に小さなスーパーも潰れてしまい、ちょっと何か欲しい場合もここに来るしかない。そんな理由もあって、コンビニのわりに品ぞろえはなかなか良いと思う。
 暑い野外にしばらくいたので、店内の涼しさは天国。アイスを買いに来たくせに、他のコーナーを無駄に回って涼んでみる。
 雑誌……は特に興味ない。ちらっと後ろを振り返れば、シャンプー、リンス、カットバン……む!!
 視線を逸らして見なかったことにする。
 さすがにここで買いませんよ。毎日利用してて店員とは顔見知り、恥ずかしくて二度と来れなくなる。
 気を取り直して、犬猫えさ、携帯充電器、カップラーメン、お菓子、パン、弁当惣菜、ジュース……そろそろいいかな、毎日来てるから見慣れすぎてる。アイスコーナーへ戻っていま食べたいアイスを決めよう。
 ……羽山、まさかまた棒アイス買ったりしないだろうな? と少々心配にはなる。自分の理性がね、ちょっともう危険域。
 でも今日はカップのバニラアイスを手に取っているので一安心。では俺はボトル型氷菓にしておこう。

 店の外の影で、並んで座って食べるアイス。
 店内が涼しかったせいで、外は風がぬるい。
 そこに、近所に住む野球少女が自転車で滑り込んでくる。俺の姿に気付いたら寄りたくても素通りするかと思ったのに、よほど寄りたい用事があったのだろう。横目でこちらを見て、店内に入る。羽山と仲いいような話だけど、声も掛けてこなかった。

「伊吹だ」
「ほら、ガン無視」
「疲れてるんじゃないの? 野球部練習時間今長いって言ってたじゃない」

 それもあるのかな? マネも大変だな、練習に付き合わされて。
 間もなく、チアパックのアイスを持って出てくる伊吹は俺の前を通り過ぎ、なぜか羽山の横に腰を下ろした。

「めちゃくちゃ日に焼けて肩痛い」
「袖捲り上げて肩まで露出してるからだよぅ。ジャージ着てたら?」
「暑いでしょ? 何でつばさはカーディガンとか着てるのよ」
「暑いけどさぁ……肌が焼けるとオーブンに入れたみたいにじっくりいっちゃうから体が熱くなるでしょ? 暑そうだけど一枚羽織ってると違うよ? 直接当たらないから」
「ああ、アルミホイルで包んだら焦げないやつ?」
「そうそう……って、例えでいいのかなぁ?」

 何だ? この二人、普通に会話してやがる!!
 全くタイプが違う、接点が全く分からないのに、会話が成立してるのかしてないのか謎の単語がぽんぽん飛んでる。
 けど、俺は無視なのね。分かる。

「この前、カレシと部室でイチャついてたらさ、サッカー部のヤツに盗み聞きされててさ……」
「あれは、お前が!!」

 つい口を出してしまうが、

「何かムカついたから追っかけてやったら、ここのコンビニに悲鳴上げながら駆け込んでいったわ」
「……無視かよ」
「創くんだったの?」
「いや、たまたまボールを戻しに……つーか、カレシって、物好きがいるもんだな」
「土曜からいよいよ甲子園なのよー。いいでしょ?」

 やっぱ無視か!

「んー、そ、そうだね」
「試合、テレビでやるから見てよー。二日目の二試合目よ」
「うん、忘れなかったら……」
「感想はぜひ、メールで1000文字ほどお願いしたいわね」
「ルール分かんないのに無理だよぅ」

 羽山困ってるし。まぁ、ここで俺が何と言おうとどうせ無視されるんだから、黙ってボトルアイスを手で揉んで崩しながら食べる。

「伊吹のカレシさんって、この前言ってた野球部の先輩?」
「ええ、キャプテンよ」

 野球部キャプテン……? ピッチャーの先輩だっけ? キャッチャーの方だっけ? 別ポジションだったか? サッカーと違ってキャプテンマークは付けてないから分からない。
 けど、恋愛話になった途端、伊吹から普段の荒々しさがなくなる。何というか、乙女? 羽山と会話しているのに花が舞っているように見える。錯覚にしてもこれは似合わなさすぎて気持ち悪い。

「疲れたから帰るわ」
「うん、おつかれー」

 アイスを食べ終わってからも結構しゃべってから帰っていく伊吹。とても疲れているようには見えなかったのだが、終始見事に無視してくれた。

「……見事な無視だったね」
「だから嫌われてるって言ってるじゃん」
「うん、まぁ、知ってるけど……。やっぱり中一の時のあれが原因?」
「え? 知ってた?」
「見てた」
「そっか……同じクラスだったし、教室だったもんな、あれ」

 元から乱暴者ではあったが、あんなに怒った伊吹を見たのは、後にも先にもあの時だけ。

「スポ少の延長で中学でも野球部入るって話してたから……」
「何でサッカー部に入ったの?」
「……坊主頭にしたくないのと、サッカーがかっこよく見えたから。帽子のせいで顔が変な焼け方するし、あれけっこう恥ずかしいんだよな。」

 動機にしては不十分すぎる。伊吹に聞かれたら絶対殴られる。

「確かに変な焼け方するね。それに野球部イコール坊主だ。創くんの坊主はちょっと想像つかないなぁ」
「……でも、もし野球続けてたとしても、同じ高校目指すことになってたか」
「野球やってた頃はどこのポジションだったの?」
「レフト……外野な。けっこう肩が強かったっつーか、ボールを遠くまで投げれるからって理由だけど」
「突然サッカーに行って、野球に未練とかあるの?」
「別にないかな。キリのいいとこで転身したと思ってるからかな」
「ふぅん……」

 空になって弄んでいたアイスのゴミをようやくゴミ箱へ。
 羽山の俺についてきてゴミを捨てる。

「さて、今日はもう解散でよろしいかな?」
「え? もう?」

 時間はまだ午後三時を過ぎたところ。帰宅には確かにまだ早い。しかし俺には、用事がある。

「家、掃除したいんだ。いつもほこりが気になってきたらほうきでささーっと掃くだけだから、ちゃんと掃除しときたいし。それに、ちょっと台所がカオスでな……」
「ああ、そういうの得意だから手つだ」
「まだ来るの早い」
「ええー?」
「だからもぅ、ほいほい来ないでて言ったでしょ? ああそうか、布団干してシーツも洗っとこう。そういえば換えのシーツどっかあるのかなぁ」
「ほえぇ?!」

 ようやく感づいてわたわたと大袈裟な手振りで慌てる羽山。いやぁ、かわいいですなぁ。ホント、持って帰りたい。

「ということなので、数日は掃除と部活のため、遊びませんのであしからず」
「はーい、了解しました」

 なので本日はこれにて解散します。

「ねぇ、土曜は夕飯、そっちで作っていい?」

 ぶはっ! 分かってて言ってんのそれ。もうそのつもりなの?

「お任せします!」

 としか言いようがないんですけどね。
 でもそういうことなら本気で掃除をせねばならない。

「台所の掃除は緑の液体洗剤だよー」

 アドバイスありがとう。


 しかし帰宅したところで、いつもの自宅。あー何かほこりっぽいよなー、色んなところが。と一応は思う。でも家に入るとやっぱりいいかーって気にならなくなる。
 よくごらんなさい、廊下や部屋の隅が白く見えるほどのほこりを。普段ならこれはほうきで掃いて終了なところだが、今日はきれいに取ってやろう。シートが交換できるタイプのワイパーですーいすい。しかもほこりがよく取れるというフワフワタイプのシートだ。一応、ずいぶん前に掃除しようと思って買ったが使うのは今日が初めて。
 ただ廊下とダイニングのフローリングを滑らせただけなのに真っ黒……汚い。通りで足の裏が黒くなってた訳だ。
 お次はウエットタイプ。これも以前掃除をしようと買っていたが以下略である。ワイパーに付け替えて、またフローリングをすーいすい。
 ……何度拭いても真っ黒なんですけど。ということは、俺の部屋もこれと同等?
 しかし、ある程度妥協しつつやらないと、他の箇所まで手が回らなくなってしまう。よし、一階の床がざっと終わったら台所の掃除に取り掛かってしまおう。まだ明日もある。自分の部屋は明日の朝、布団を干してシーツを洗うことからスタートということで。

 ところが台所もしつこかった。特にガスコンロが。もう、買い替えてほしいぐらいに。家にある掃除道具、フル活用だった。ワイヤーのついた歯ブラシ、スチールウール、どっちも指に刺さると痛い。とにかく焦げとべたつき落とし。
 別にそう使ってないはずなのに、こんなに汚い台所に羽山を立たせるわけにはいかない! そうだ、最後にいつ使って洗ってしまったのかわからない調理器具も一度洗っておくべきか。
 あとは冷蔵庫内を……。

「どうだ、ざまぁみろ!」

 と仰け反りたくなるほどに、キレイになったと自分では思う。
 仰け反ったせいで見つけてしまった。
 換気扇、忘れてた。まぁ、明日で……。

「ただいまー」

 まだ外が明るいから六時ぐらいかと思っていたら、もう七時前。父さんの帰宅だ。
 あ、夕飯忘れてた!

「何かすごくキレイになってるけど、掃除したのか?」
「ああ、うん。部活休みだったし、天気良かったからちょっとだけ」

 実質、四時間もしていない。
 そして、父さんが俺の夕飯まで買ってきているはずもなく、これから買いに出ようと自転車で走り出したところ、桜井家の前で中年男性に呼び止められた。

「創、どこ行くんだ?」

 伊吹の父さんだ。単身赴任で普段は自宅にはいないのに、平日の今いるということは、赴任先から帰ってきたのか、会社を辞めたのか……後者はいくらなんでもないと思うけど。スーツ姿だから今ちょうど帰ってきたところだろうか。

「夕飯買いに」
「どうせコンビニ弁当ばっか食ってんだろ? ウチ来い」

 え、イヤだ。
 とすぐに思ったけど、伊吹の父さんは伊吹に似てるから扱いには注意しないと、機嫌が悪くなる。

「じゃ、お言葉に甘えて」

 と笑顔で答える。
 今日、しかも四時間ちょっと前に伊吹にガン無視されたばかりなんだけどな。

「お父さんおかえり……あら、創くんいらっしゃい」
「こんばんは」
「腹空かしてるから何か食わせてやってくれ。足りないならピザでも取るか?」
「ここは配達区域外よ」

 と、階段から降りながら答える伊吹。俺に気付いても、ひどい拒絶は見せなかった。

「伊吹、お父さんにおかえりは?」
「おかえり、パパ」

 声音全然変わってなくて、棒読みで怖い。

「おとーさん、おかえりー」

 と、喜んで飛びついていったのは伊吹の弟、大志。中学一年の男子なのにこの喜びよう。子犬と言ってもいいぐらい。

「重い……太ったんじゃないか?」
「ウエイトよ。四キロ付けさせてるから」
「また大志にそんなものを」
「今から鍛えとかないと、甲子園行けないでしょ!」

 小学生時代の倍になったか。伊吹の英才教育だそうだが。

「そういえば、甲子園行くんだろ? いつからだ?」
「金曜にはこっちを出るわ」

 ほぅ、鬼はいないのか。見つかってどうこうという心配はなさそうだな。

「もぅ、玄関で立ち話はいいから、早く入って。すぐご飯の支度するから」

 桜井家久しぶりであろう一家団欒にプラスワン。小学生時代にもたまにあった光景なんだけど……あの頃と違って一人、足りない。

「蓮やお母さんとは連絡取ってるのか?」

 デリカシーというものを消滅させたような性格の伊吹でさえも聞いてこなかったことなのに、伊吹の父さんは遠慮なく手榴弾を投げ込んでくる。
 誰もが、何でそんなこと聞くの? とでも言いたげな曇った表情を浮かべた。みんな、気を遣って黙ってくれていたのに。でも、そういうことをズバズバ言うのが桜井父である。伊吹の方がまだオブラートの使い方を知ってるようにこの時は思えた。

「……いえ、一度も。どこにいるのか、何をしてるのかも知りません」

 離婚の原因も、置いて行かれた理由も、何も……。
 気になるけど、聞けないこと。未だにふと考え込んでしまうこともある。

「お父さんバカじゃないの。ご飯マズくなっちゃうじゃない!」

 と伊吹が他人の皿からおかずを奪う。

「……あ、ああ!!」

 弟の皿にエビフライのしっぽだけを戻す。

「お姉ちゃんひどいぃぃ!!」

 それは昔から変わらない光景だった。


 ――伊吹から聞いたの。
 ――伊吹がね、
 ――伊吹だから、
 ――伊吹は、本当は青木くんのこと好きなんじゃないかな?


 まさか。
 でもそれは恋愛感情としてではなく、人としてであって。
 うまく説明できないけど、分かった気がする。
 そしてあの性格故に、素直になることはないだろう。
 離れすぎず、近付きすぎず、この関係を維持していたらいい。

「あ、そういえば、補習と追試は終わったのインターハイ一回戦負けの色ボケサッカー部員」
「んぐっ……!!」

 このヤロウ! 前言撤回だ!


「ご馳走様でした」
「いえいえ、いつでも食べに来ていいのよ?」
「それはさすがに……」

 有り難いけどいろいろ無理。
 自転車は押して帰宅。父はもう夕食を済ませ、風呂の湯が溜まるの待ちって感じで、ダイニングでテレビを見ながらのんびりビールを飲んでいた。

「おかえり、あれ? 何も買ってこなかったのか?」
「いや、行く前に伊吹の父さんに捕まった」
「……ああ、なるほど」

 とだけ言って会話が途切れる。
 こういう時、伊吹の父さんみたいなタイプだったらもっと会話が弾むだろうにと思うわけだ。
 こんな父がテレビを見ているだけのダイニングにいたって面白くもなんともないので、自分の部屋に上がって片づけでもしておこう。

 一応置いてあるけど別に使ってないから壁側でぐしゃぐしゃになっている掛け布団の中から制服が発掘された。そういえば洗った覚えがなかったような、それさえも曖昧どころか存在を忘れていた。……ああそうだ、脱いだのを布団の上に投げて、寝る時に邪魔になったんだ。後で持って行こうが忘れ去られたやつだな。
 通学カバンで邪魔になったプリントが使ってない学習机にとりあえず置いてある。とりあえずすぎていつからここに積み上げはじめたのかも不明で、それの上にいつも置き勉している教科書や資料などを夏休み前に持って帰らされたので更に積み重なってる状態。本は本棚へ入れるが、そのうち棚に入りきらなくなってきて結局積み上げる。教科書用のスペースが狭すぎた。
 次に出て来た紙類、提出しなければいけなかったのに失くしてしまったプリントが今になって見つかるという事態が発生する。
 これも一度見てからいらないものを捨てないと、きっと夏休みの何かのプリントも混じってたりするはずだ。
 とりあえず、授業で使ったものは保管、学校からのプリントや提出期限が過ぎたものは捨てる。
 修学旅行の行き先アンケートなんてあったのか……もう覚えすらない。
 これをまた部屋の片隅に置いて後回しにすると捨て忘れるので、ちゃんと一階のゴミ袋へ入れる。制服も洗面所まで持って行っておく。父さんが風呂に入ってるようだ。

 ざっと片づけを終えて風呂に入り、ついでに風呂掃除をして就寝。
 明日の部活は八時半から二時間だ。

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HN:
椿瀬誠
HP:
性別:
非公開
職業:
創作屋(リハビリ中)
趣味:
駄文、らくがき、ゲーム
自己紹介:
元々はヘンタイ一次創作野郎です。
絵とか文章とか書きます。
二次もどっぷりはまってしまったときにはやらかします。
なので、(自称)ハイブリッド創作野郎なのです。
しかし近年、スマホMMOにドップリしてしまって創作意欲が湧きません。
ゲームなんかやめてしまえ!

X(ついった)にはよくいますが、ゲーム専用垢になってしまいました。
@M_tsubase

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