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かつてネット小説書いてた人のリハビリ場所

  9☆つばさ


 通学途中にある麺屋。梅雨時期でまだ寒くないか? 早いのではないか、と思うような「冷やし中華はじめました」というのぼりを見かけてから1ヵ月ぐらいは過ぎただろうか。
 雨の日数は徐々に減り、夏の訪れを告げるようアレが鳴いているのに気付いた。
 夏――セミ、始めました。
 外はまさしくカンカン照りで、上から太陽が照り付け、下はアスファルトが余熱でじっくりじわじわ……例えるなら両面焼きグリル。夏の野外はまさにそれであった。
 いつの間にか夏ですよ。お弁当腐る……。
 でも大丈夫、安心してください、学校はエアコン完備です!
 寒くもなく暑くもない程度の室温で勉強に快適な環境。遠方からの進学も安心な寮もあり、なかなかメニューが豊富でおいしいと評判の(まだ行ったことない)食堂もあり、さすが私立、至れり尽くせり。

「んー、ウチの学校にもエアコンあるよ」

 なに!? 県立高校にもエアコンあるだと!
 たまたま帰りが早かった青木くんに会い、コンビニの影でアイスを食べながら座り込んで話してるけど、汗だらだら。実は側に室外機があるから余計に暑かったりするんだけど、ちょうど道路から見えないところで夕方の時間帯で唯一日陰になる場所だからここにいる。

「それにしても暑いね。食べ終わる前に溶け始めたぁ」

 こぼさないよう、垂れるしずくを舐める。気温が高い時に棒アイスは失敗だ。次からやめよう。そして崩れ落ちる前に一気に咥えこんだところ、隣から視線を感じる。
 アイスを咥えたままそちらを向くと、何とも間抜けな顔をした青木くんが私を見ている。しまった、かわいくなかったかな。

「……エロい」

 どこが!! と全力のツッコミを入れたのだが、青木くんはごにょごにょと濁して教えてくれなかった。


  □□□


「そりゃつばさん、アレだ……」

 学校で友達との会話の中で話題にしてみたら、周りにいた三人全員に何とも言えない表情をされ、志乃ちゃんが重い口を開いた。

「え? やっぱ棒アイスなんて子供っぽかった? やっぱカップの方にしとけば良かったかなぁ」
「そこじゃない。何で子供っぽいにエロいが繋がるのよこの子は」

 あ、そうだね。あれれ?

「食べ方がこう……エロいのよ」
「何で、普通に食べてたもん」
「だからぁ……」
「なんて純粋なのこの子!」

 バカにされてるのかな、これは。

「もぅ、何か濁されるとすごいバカにされてるみたいでいやなんだけど、はっきり言ってよ!」
「ならはっきり言うわよ。しゃぶってるとこ想像したのよ、カレシ」
「……へ? しゃぶ……??」

 ここは女子しかいない花の楽園ではない。
 男子禁制のこの空間に、オブラートなど存在しなかったのだ。
 カプセルの薬の中身をぶちまけてしまったのか……。
 私は、知ってしまったのだ。そっちの話を……知らなさ過ぎたのだと痛感したのだ。

「今は純粋無垢なつばさんも、そのうちカレシにエロいことされるのね……」
「う、うわわーん!!」
「まぁ、覚悟はしとかないとね。つきあってたら避けては通れない、もうそういう歳なんだから」
「男の部屋に一人で踏み込むときはそれなりの覚悟で! ほいほい泊まりにいかないのよ?」
「あと、何があってもちゃんと避妊をしてもらうのよ」
「それから、男の前で長い棒状のものをしゃぶるように食べるのは不可。バナナなんてもってのほか! 襲われてもしらないからね」

 聞きたく、なかった……。
 だって青木くんはそういう素振りとか全然ないし、手繋いだりキスするぐらいでもまだ照れるぐらいの関係だし、ましてやまだ名前で呼び合うことさえもできてないほど純粋な……って思ってるのはもしかして私だけかな? だからお子様とか言われるのか……。

「だって、そんなこと、保健体育の教科書にもなかったし、性教育でも習ってないもん!」
「教えられてたまるか!!」

 二次性徴ばかやろう。

「だいたい、そんな情報どこから得てくるんだよぅ」
「……兄貴のエロ本?」
「微妙だよぅ!」

 理想的な女子高生の会話じゃないよぅ。


 少々のカルチャーショックを伴って、帰宅しまする。

「つばさ、ちょっといらっしゃい」

 途中で伊吹に捕まって、ファストフード店に連れ込まれた。
 体育会系な伊吹は、半袖のブラウスの袖をさらにまくって肩まで露出しそうな勢い。スカートもふつうのより短めな気がするけど、やっぱり露出をカバーするようにちゃんとスパッツがのぞいている。いつでもすぐ捕獲に走れる感じだ。それに捕まったのが私ね。
 伊吹はポテトと炭酸飲料を注文し、私はアイスティとデザート的なものを注文して、日差しの入る窓から離れた涼しい席についた。
 来いって言ってたくせに、なぜかポテトを黙々と食べ続ける伊吹。なぜかとてもこちらから話しかけれるようなオーラではなかった。その間に私もデザート的なパイをもそもそと食べる。外がパラパラとこぼれる、中身が飛び出すで少々苦戦を強いられてしまった。

「145……普通ね」
「一体何が?」
「本数よ、ポテトの」
「……数えてたの?」

 ほんと、変わった人だ。でもようやく会話ができそうだ。

「で、何か用事?」
「この前コンビニであたしの連絡先聞きたがってたでしょ?」
「うん、そうだけど……」
「たまたまつばさがいたから、交換しようかと思って。じゃないといつまでも面白い情報提供できないでしょ?」
「何をしようと思ってるのかちょっと予想つくよ」
「うふふ、学校での創の姿が見れるのよ、ありがたく思いなさい」

 いい友を持ったのか、地獄の始まりなのか……。彼女があの桜井伊吹だから、なんとも言えない。

「すでに激写いっぱいあるのよ」

 と、写真をどんどん見せてくるけど、全部居眠り写真だった。

「……授業受けてるのかな?」
「寝てるわよ、クラス違うから休み時間の度に見に行ってるけど、起きてる気配ないもの。写真撮られてるのにも全然気付いてないみたいだし」
「お説教だよぅ」
「部活の時間はすっごい頑張ってるんだけどね」

 と次の写真を見せてくるが、いろいろおかしい。

「……鬼ごっこでもしてるの?」
「いいえ、野球部員と戯れてるのよ」

 そういえば仲が悪いって聞いたような。
 携帯番号とメアド交換をすると、すぐに伊吹から大量の寝顔写真が送られてくる。
 んん、かわいいである。

「生で見たいでしょ?」
「んー、見たよ」

 はっ! とした時にはすでに遅し。伊吹はニヤっと何かをたくらんだような表情を浮かべる。

「ヤったの?」
「してないよぅ!!」

 今日はこっちのネタで持ち切りの日なのか? でも先日のコンビニの時みたいにダイレクトな名称を言ってこなくて助かった。

「でも寝顔見たことあるんだ、へぇ……未遂かしら?」
「もう何とでも言ってくだされ」
「緊張しすぎて使えなかったことにしとくわ」

 ……何が?
 あれは別に何にもなかったし、まだそういう関係でもなかった頃だったし、下手に言い訳した方が裏目に出たりするから、それはもう、今日十分思い知らされた感じがするのでもう黙ります。


「じゃ、また連絡するわ」

 いつものコンビニがある三叉路で、伊吹と別れた。
 別れた途端、ふと気付く。
 そういえば、今日は部活なかったのかな? まぁ、たまには休む用事もあるか。寄り道してたけど。


 帰宅からしばらくして、伊吹から件名も本文もない写真のみのメールが二十通ほど送られてきた。
 小さい頃の青木くんの写真から、中学に入る前までの頃……私の知らない彼。さすが幼馴染み殿、いいものを持ってらっしゃる……けど、私にとってはお宝写真すぎる、けど、当然のように伊吹が一緒に写ってるのよね……嫉妬しちゃう。
 青木くんたちより小さい子もたまに写っている。笑顔溢れるかわいい男の子と、なんとなく青木くんに似たはにかんだ笑顔の男の子……弟さん?


 そんなことがあっても、何も知らない青木くんは私に逢いに来る。

「授業ちゃんと聞いてる?」
「……提出物はちゃんと出してるよ」
「授業聞いてるか聞いてるんだけどなぁ」
「……どうしたの急に」

 私は携帯から居眠り写真を表示させて青木くんに見せる。

「内部告発がありまして」
「……誰か写真撮りに来てるって聞いたことはあったけど、あれ羽山だったの?」
「それはない」

 学校違うでしょ、このとんちんかんさん。私と同レベルだったか!!

「居眠りは関心態度にCつくって言ったじゃん」
「いや、俺もう大学とか専門とかには進学はしないので……」
「進学以前に留年だよ! どうせテストも点取れてないでしょ? もう一回一年生だよ!」
「……二回留年して羽山と同じ五年とか?」
「バカ言っちゃだめだよ!!」

 って怒ったら、すごい勢いで謝られたからたじろいでしまった。

「羽山、母さんかよ」
「うう、なんですとぅ!!」

 私にはよく分からない次元ではあるけど、ごく一般的なお母さんってそんなのなんだ……。

「でもま、以後気を付けます。ついでに寝たフリでもして撮影者捕まえよう」
「……殴るよ?」
「……伊吹かよ。全然接点なさそうなのにしれっと繋がってるよな」
「……青木くんのお宝写真いっぱいいただきました」
「ワイロか?」
「ううん、何かと伊吹も一緒に写ってる写真チョイスされてるあたり、嫌がらせだと思う」
「……アイツらしいな」
「確認しないの?」
「……気にはなるけどやめとく。弟写ってるだろ」

 やっぱり弟さんなんだ。お母さんと一緒に弟さんは出て行ったこと、青木くんは置いて行かれたこと、まだ引っかかってるんだ。
 伊吹が送ってきた写真の話はしなければよかったと後悔した。
 あと……私の前では伊吹のことを「桜井」って言うようにしてることにも気づいてしまった。幼馴染みだから、中学であんなことになるまではきっと名前で呼び合ってたはず、そう思えるほど、二人の、互いの呼び方が名前だと自然なのに、苗字だとよそよそしく聞こえるんだ。
 そうか……私はまだ、「羽山」なのね。毎日逢いたいだけじゃ飽き足らず、ワガママなすぎるね。
 鈍感なくせに、こういうことには気付くんだから……イヤだなぁ。


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椿瀬誠
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職業:
創作屋(リハビリ中)
趣味:
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自己紹介:
元々はヘンタイ一次創作野郎です。
絵とか文章とか書きます。
二次もどっぷりはまってしまったときにはやらかします。
なので、(自称)ハイブリッド創作野郎なのです。
しかし近年、スマホMMOにドップリしてしまって創作意欲が湧きません。
ゲームなんかやめてしまえ!

X(ついった)にはよくいますが、ゲーム専用垢になってしまいました。
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