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かつてネット小説書いてた人のリハビリ場所

  16★そう


 ――甲子園、行こうね!

 スポ少で野球やってた頃、伊吹がよく言っていた。
 とある高校野球マンガの影響だった。
 幼馴染みで同級生の男女、という共通点があったせいで、伊吹は過剰に重ね合わせていた。
 むしろ、アイツのことだから甲子園行って当たり前ぐらいに思っていたかもしれない。
 故に、中学でサッカー部入ってしまった俺へのあたりがひどくなったのも分からなくはない。
 分からなくはないし、伊吹の願いを叶えてやるのも俺ではないのだけども、野球部にカレシを作り、高校1年の夏にあっさり甲子園の夢を叶えている件につきましては、なんともよく分からない感情でモヤモヤしてしまって……。
 連れてってくれるなら誰でもいいのかよ!
 とか、自分は連れて行かないのに身勝手極まりないというか、何なんでしょうねこの感情。
 まぁ、地球がひっくり返っても、実は伊吹が好きだなんてことはありえないのだけども……ホント、素直に祝ってやれないぐらい、むしろ呪いたい。

 そうか、これは、これまでに食らわされた数々の暴力のせいだ。
 言葉の暴力から精神的暴力、身体的暴力まで、暴力というものをすべて網羅したような、キング・オブ・暴力。
 歩く暴力女。
 存在そのものが暴力的。
 離れた今でも苦痛がおさまらずに悩まされている。




 ――ピンポーン♪

 そろそろ来そうだと思ってた。
 二回戦敗退した野球部のマネージャーが帰宅した頃合いだろう。代理人が何かを持ってきたと予測。それもトンデモナイものを。
 玄関を開けると、幼馴染みと血が繋がっているとは思えない、平均より小柄な男子中学生が天使のような笑顔で待っていた。

「お姉ちゃんからおみやげ。すぐに持って行けって蹴りだされたから持ってきた!」

 と高らかに掲げたソレはちょうど俺の目の前。ビニール袋に入った……土?

「甲子園の土だって! 新鮮なうちにお湯に溶かして飲んだらいいんだって!」

 めちゃくちゃ笑顔でそんなことを言う大志。
 新鮮もクソもあるか! 粉末清涼飲料じゃねぇわ!
 俺はすかさず大志の顎を掴む。

「じゃ、一緒に飲むか? 遠慮いらないぜ」
「えんりょひまふ」

 どこからどこまでが素なのか本気か演技かわからんやつだが、今みたいにたまに本性出てる気がする。
 お土産は土だけじゃなく、ちゃんとお菓子もあった。俺の父宛に。
 あっちがそういう態度なら、俺は意地でもそれを口にはしてやらないんだからな。




 そして、今日も今日とて、午前と午後の部活入れ替え時間、各所で当然のように小競り合いが始まろうとしている。午後は我がサッカー部。

「おぅ、二回戦敗退じゃねぇか」
「そっちなんかインターハイ一回戦負けだろうが!」
「大号泣してるの全国放送されてたぜ」
「……っんだとコラ、やんのか?」

 先輩方が絡むのなんの。これが通常営業なのだが、やっぱり慣れない、慣れたくない! なのでそっと、言い合いをしている野球部員の視界に入らぬよう人影に隠れた。
 野球部側は三年が引退したのか、人数的に勢力が衰えている気はするけど。

「無駄なことしてんじゃねぇよ、さっさと部室行け!」
「あ、すみません、キャプテン」

 私服で大柄の坊主頭が一喝すると、絡んでいた野球部員がさっと駆けていく。
 坊主頭の隣に、マネージャー様の伊吹がマスコットのように添えられて……いつもと違っておとなしい。
 このキャプテンと呼ばれた男、ピッチャーの人じゃないぞ? どういうことだ? 伊吹の彼氏、ピッチャーの人じゃなかっただと? じゃ誰だよ。
 俺からの視線にそんな疑問が含まれているのを察したのか、伊吹はキャプテンの腕に手を添え、なぜか笑顔を浮かべた。
 うん、その人が彼氏さんなんだね、分かった。私服でわざわざ来てるとか、見せつけか。
 いや、どうでもいいだろ。
 これから部活開始なのに、精神的に疲れてどうする。

 とはいえ、気になるものは気になるので、先輩に当たり障りがない程度に聞いてみた。

「野球部のキャプテン、ほかの三年はもう来てないのになんで来てたんでしょうね?」
「ああ、たぶん新しいキャプテンの決定と引継ぎだろうよ。もう引退だからな」
「オレらまだ冬にチャンスあるからな! お得だよなー」

 なるほど、そういうことか。
 サッカー部にも進路のために夏で部活を辞めた人はいるけど。

「それはそれで就職進学先のこともあるから大変でしょ」
「んー、わからん!」
「全然実感わかないもんなー」
「そのまま留年したりして?」
「ハハハハ! どうにかなるだろ! 高校生は今しかないから、後悔しないようエンジョイするだけだ!」

 といった感じで、サッカー部三年はまだまだお気楽極楽。
 夏休みに差がつくんですよ、って中学の時に言われたのをふと思い出した。

「石田はもう決まってるらしいじゃん」
「あー、なんか大学側からスカウトされたとかって話?」

 石田? ……あ!
 ようやく全部が繋がった。
 野球部のキャプテンは石田という人だ。4番バッターの内野手。
 伊吹が好きな野球漫画だと主人公がピッチャーだったから、すっかりそうだと思い込んでいた。

「え? プロから声かけられてんじゃないの?」
「それ初耳~」

 と、定かではない情報に翻弄されたまま、午後の日差しの暑さに、練習もグダグダになっていた。
 野球部員が解散していったのは、我がサッカー部が練習を始めて1時間半ぐらい経った頃。
 練習になりそうにない記録的猛暑だったので、無理せず木陰での休憩を多めに挟みながらも、今日もこんがり焼けてしまったことだろう。
 暑い、もういやだ。プールに飛び込みたい!

「若月は学校にプールあるから、部活がたまにプールになるんだってさ」
「わー、うらやま」
「滑り止めだったけどあっちも受かってたのになー、行く学校間違えたかなぁ」
「学費高いじゃん」
「知らねぇよ、俺が払うわけじゃねぇもん」

 若月学園……滑り止めで入試を受けた私立の落ちた方だ。
 入試の時に行っただけだけど、学校の規模がすごかったよなぁ。学生生活を送るなら、ああいう施設の充実した学校に憧れるけど、部活面だよなぁ。人工芝のフィールドがあるとはいえ……、

「試合出れねぇ奴がどれだけいると思ってんだよ」
「すごいよな、部員数が。3、4チーム作れそうじゃん」
「いや、部員が100人はいるらしいから、部員だけでトーナメントできるだろ」
「うわ、マジかよ! やっぱ試合ぐらいは出たいからな。多すぎない方がいいわ」

 施設だけ見たらちょっといいなぁとは思いはしたけど、ちゃんと第一志望の学校に行けて良かった。まぁ、平日はまともな練習ができている気はしないんだけど。
 突然風が吹き始める。気持ち涼しい、というより少し肌寒いような。なんて思っていたら、みるみるどす黒く厚い雲が空を覆い辺りが暗くなってきて、ゴロゴロと嫌な音をたてはじめた。

「こりゃ降るな」

 と近くにいた先輩がぼやいた瞬間、すごい勢いで大粒の雨が空から落ち始めた。

「なんだ!? 痛い!」
「どっか、雨宿り!」

 屋根がある場所程度では横殴りの雨はしのげず、部室までどうにか戻ったものの狭くて一つしかない入口で大渋滞してしまい、結局みんなずぶ濡れになってしまっていた。
 室内はそう広くもない空間で大人数が濡れているせいで蒸して、不快な空気。
 自分の荷物までたどり着いて取り出したタオル。ゴワゴワとした触り心地が頭や体をふいていると水分を吸って少し柔らかくなった。

「……あ」

 ふと思い出して声が漏れた。洗濯物外に干して出てきたんだった、屋根がないところに。ずぶ濡れかな、大粒の雨がかなり強く降ったせいで多分砂が跳ねてるだろうし、洗い直しか。
 そんなことだけなら良かった。

「ああ!!!」

 さっきより大きな声が出た。
 ゲリラ雷雨なんて予想もしてなかったから、まぁだからゲリラなんだろうけど、自分の部屋の窓を開けてきてしまった。
 しとしと雨ぐらいならここまで心配はしない。横殴りで一気にものすごい量が降ってるんだから、もはや無事ではあるまい。

「どうした青木」

 声を上げて放心していると、横にいる同級生が心配して声をかけてくれた。

「部屋の窓開けてきた」
「……そりゃ、あきらめろん」
「やっぱりぃ」

 帰宅したら、エアコン除湿にして濡れた部屋の掃除かー。
 絨毯もラグも敷いてないのがせめてもの救いか。

 30分後にはさっきの雷雨はどこへいったんだと思うほどに天気は回復したけど、グラウンドは雨でグチャグチャなので本日の部活は終了――解散。
 もう手遅れだろうけど家に急いで帰る途中、それこそいつものコンビニ手前辺りから道路すら濡れていないことに気づいた。
 あれ?
 疑問に思い、信号待ちしている間につばさにメールを打ってみた。

 ――さっき雨降った?

 返信は早く、降ってないけどどうしたの? という返事がきたので、部活中にゲリラ雷雨でひどい目にあったと報告したけど、こっちは降らなかったよと返ってきた。
 これはもしや、助かった?
 帰宅して現状を確認するまでは安心できないけど、もしかしたらもしかするかもしれない!

 洗濯物はパリパリに乾いていた。
 部屋も何ともない。
 雨さえ降った形跡もなかった。
 自分だけ雨と汗でびしょ濡れだった。
 よし、シャワー浴びて着替えよう。いつもより早く帰れたから、つばさに逢いに行こう。

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職業:
創作屋(リハビリ中)
趣味:
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自己紹介:
元々はヘンタイ一次創作野郎です。
絵とか文章とか書きます。
二次もどっぷりはまってしまったときにはやらかします。
なので、(自称)ハイブリッド創作野郎なのです。
しかし近年、スマホMMOにドップリしてしまって創作意欲が湧きません。
ゲームなんかやめてしまえ!

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