かつてネット小説書いてた人のリハビリ場所
10★そう
――キーンコーンカーンコーン♪
さて、眠いのをガマンして一時間目は終了し、休み時間。写真を撮りに来るかは謎だがとりあえず寝たフリをすべく机に伏せる。それからそう経たないうちに特徴的な足音、ほぼ真横で止まってからのシャッター音。
――ンゴゴゴゴ。
椅子の引き方がおかしかったせいで変な音が床に響くがそこは気にせず撮影者をとっ捕まえる。
これまで俺が全然気づいていなかっただけに、けっこう驚いた表情をした伊吹がそこにいた。
「お前、羽山と何やってんの?」
「名前で呼んでやれよゴミクズ」
俺より身長低いくせに、強く睨み上げてくる目は人をひどく見下すような視線で、完全無防備だったスネを蹴飛ばしてきた。俺がひるんだ隙にくるりと向きを変えて教室から出て行って姿は見えなくなった……と思ったら、またドアのところまで戻ってきて一度こちらを撮影。
なんなんだよ、ホントにアイツは! 何であんなのと羽山が繋がってんだよ、意味わかんねぇ。
――名前で呼んでやれよゴミクズ。
伊吹に言われたことがふと蘇る。
……名前、で?
誰を?
羽山?
えっと……、つばさ……さん?
「ほぁああああああ!!!」
顔がどんどん熱を持つ。考えただけで恥ずかしくなってしまい、思わず教室でみんながいるというのに構わず叫んでいた。
「ちょ、青木?」
「なに、やっぱあの写真で弱み握られてたんだ」
「あの桜井さんだし……」
「ご愁傷さまだね」
ちゃうわ。俺が想像以上にへちまでヘタレすぎると自ら嘆いているだけだ。
この日は更に追い打ちを掛けるような事故も発生することになる。
来月頭から開催される総体の練習が更に厳しくなってきて、当然甲子園行きが決まっている野球部も厳しい練習をしているんだけど、グラウンドがあれでこれでそれないつもの理由でまぁ、もう、以下略で。全国に向けた練習がこれでいいのか本当に。
どちらも譲らず、時間ギリギリまで練習をしてたおかげで外はもう真っ暗なのに先輩たちはさっさと帰宅され、片づけは一年に押し付けられている形だ。
こんなに暗くなるまで練習してたら、羽山に逢いに行けないじゃないか。今日はもうお父さん帰宅してて出てこれないだろうなぁ、と肩を落としながら自転車置き場へ……行く前にサッカーボールが一球落ちているのを見つけてしまった。
おかしいな、誰かボール数え間違えたかな?
気付かなかったフリをして帰りたかったところだが、これを明日の朝、先輩に見つかったら、一年全員の責任にされて、腕立て耐久か、ダッシュ耐久か、はたまた俺はドッジ耐久だろうか。それはお断りだ。
カバンは自転車のカゴに放り込んで、ボールを部室へ持って行く。入り口ドアはもう鍵が閉めてあり、鍵も返却済み。ボール一個のためにわざわざ取りに行くのは面倒だし、たまに忘れ物を取りに来る部員もいるので、裏に回っていつも開けっぱなしの窓からボールを投げ込んだ。
――だめですってば……。
ん? どこかから女子の声がしたような……。
周りを見回しても真っ暗で、虫の鳴き声ぐらいしか聞こえない、静かな夜と言っていいほどだ。
その中に、聞き取れないが男の低い囁き声が窓ごしに聞こえ、次に女の高い声が……。
あ、これ、あかんやつや。
隣の部室……こっちは野球部だこれ。いろいろヤバいなこれ。どうするこれ。
……そうだな、何かムカつくから、窓をわざと音を立てて閉めて、走って自転車置き場へ行って、すごい勢いで帰宅するのみ!
しかし、途中から自転車なのに後ろをつけられている気がした。恐ろしくてただがむしゃらに漕ぎ続けたがそれは全然引き離すことができず、後ろを振り返ることもできないまま、いつものコンビニに到着。助けを求めるように駆け込む寸前、
「やっぱお前か、ゴミクズ盗み聞きヤロォ」
この世のものとは思えないような恐ろしい声に、ゆっくりと振り返ると……コンビニの明かりにうっすらと照らされた、完全に髪も着衣も乱れたままの伊吹が自転車にまたがったままでそこにいて、すごい形相で俺を見下していた。
まさに暗闇に浮かぶ般若の面!
「ひぃやぁあああああああ!!!!!」
コンビニ前にも関わらず、俺はすごく甲高い声で情けない悲鳴を上げてしまった。
伊吹はそのまま自転車で帰宅していく。けどさすがにその恰好で家に帰ったら何か言われるぞ。
心拍数が上がったまま、時間的に品数少ない中から弁当を選んでレジへ。弁当がレンジで温められている間、大学生ぐらいの男性店員がクスクスと笑ってくる。
「さっきの、すごい悲鳴だったね。何見たの?」
聞こえてたらしい。そういえばこの店員さんは俺が駆け込んだとき、入り口付近で掃除してたな。
「学校からずっと後ろつけられてて、怖くて振り返れなくて、とにかくコンビニに駆けこもうと思ったら声掛けられてびっくりしたというか……」
「で、誰だったの?」
「同じ学校の近所の女子でした」
レンジから弁当を取り出してレジ袋に入れながら、「なにそれ」と笑われる。
まぁ、それだけを聞けばその程度の反応だろうけど、事の始まりと仲の悪さと伊吹の恰好を見たら笑いごとではない。
学校で、いかがわしいことをしてはならん。
「じゃ、気を付けて」
店を出るとき、そう声を掛けてくれる店員さんに会釈をして、空いてる手はポケットの携帯を探す。
たぶん、今日は逢えないだろうけど、一応電話してみよう。
発信履歴からすぐ呼び出した番号に掛ける。もしかしたら食事中とか入浴中とかで出てくれないかもしれないけど……少し長めに鳴らすつもりで呼び出し音を聞いていると、そう経たないうちに羽山は出てくれた。
『もしもーし』
いつもより遅いのに、別に機嫌が悪そうな声音ではなく、通常通りだったのでまず一安心。
「ごめん、今日遅くなって……さすがに無理、かな?」
『今、コンビニ?』
「ああ、そうだけど」
『お父さんお風呂長いからちょっとなら大丈夫だよ』
やっぱお父様帰宅してんじゃん。
でも大丈夫と言われて行かないとは言えないのでとりあえずアパートへ向かう。でも話した時間はほんの少しで、今日は黙って抱きしめたい気分だった。
「どうしたの?」
「……今日はいろいろ疲れた」
「授業ちゃんと受けた?」
「うん、でもよく分からなかった。テストも解けないはずだ」
「聞いてないより、聞いてるだけでちょっと違うよ」
「そうだね、よく分かった。あと、たぶんこれから総体まであまり会えないかもしれない」
「……うん、わかった。大丈夫だよ」
羽山の方から離れようとするまで、包み込むように抱きしめているつもりだった。なのにふと、伊吹に言われたことを思い出してしまう。
――名前で呼んでやれ……。
名前……、彼女の名前は羽山つばさ。
有名なサッカーマンガのキャプテンと同じ名前だったという理由で中学に入学して割と早い段階で覚えていた名前。サッカーが得意そうな男かと思ったら、頑張り屋さんの女の子だった。
「……つばさ」
「ほぇ?」
予期せず囁いてしまった羽山の名前。離れたのは俺の方。抱きしめていたのに羽山の肩を掴んで引き離していたけど肩はつかんだままの距離で見つめ合うことになる。
「いや、あの……」
「名前、知ってたんだ」
「当たり前だろうが!!」
見当違いなことを言われて恥ずかしさはぶっ飛んだけど、助かったのかどうなのか、よく分からない。
「私も青木くんの名前知ってるよ」
と羽山は恥ずかしそうに目を逸らすけど、表情は緩んでいて、俺には嬉しそうに映った。そして、自分の名を呼んでくれることを、どう呼んでくれるのか期待する。
「創くん」
ただそれだけなのにじわじわと心に沁みて、顔の緩みが抑えきれない。
「正解!」
「やったー」
もう、お互い照れ隠しに必死で、おかしなことばかり口走っていて、
「おおそうだ、あまり遅いとお父様が」
「そうだね、忘れてた」
「忘れとったんかい!」
「うっかりです!」
うっかりすぎます!
いつもよりぎこちなく別れの挨拶を済ませ、押さえきれない照れ笑いを浮かべながら帰路につく俺。
羽山おとんが風呂上がる前にちゃんと戻れたかは謎のまま。そんなことが気にならなくなるほどとにかく舞い上がっていた。
そのせいではなく、元々まともに勉強していなかったことが祟って、一学期期末考査、見事な赤点により居眠り時間がアディショナルタイムになって夏休みに帰ってきた! 要は見事に補習と追試が決まったのである。
どうせ部活で毎日来るだろうけどさ……もう総体目前だけに先輩方の視線がいつもの倍以上に冷たかった。
「お前、一応補欠キーパーなんだから。ウチ、キーパーお前含めても二人しかいないんだから、出ることなくてもベンチ座れるって知ってた? 自覚ある?」
「た、大変申し訳ございません!!」
「補習、必ず受けますのでどうか、どうか部活割り当てになっていない時間でお願いしたいです」
「……ふざけてるね」
「そこを、そこをどうかぁぁ!! わたくし、サッカー部唯一の補欠キーパーだそうで、このクソ重要な時期に補習が決まってからというもの、先輩方の視線が冷たすぎてブリザード」
「自業自得だよ」
「……ですよね、分かってます。二学期以降はこのようなことがないよう、勉学に励む所存であります!! なので補習はどうか、どうか!!」
「ええい、うっさい!!」
土下座、土下座の嵐。
そのかいあって、補習が課題と追試になった教科、部活時間を潰すことなく補習と追試を受けれるようになった。各方面の先生方には大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解いただき感謝いたします。
が、羽山にも土下座だこれ。夏休み前半は部活と補習で潰れる。
「という訳でして……」
羽山の表情がまさにグシャっと崩れた。
「部活はガマンしようと思ってたけど、補習、追試……」
「ハイ……」
「からの、八月は総体……甲子園と何が違うの?」
「根本が違うねそれ。伊吹の方が得意分野だから聞いてみるといい。一時間は語ってくれるだろう」
「試合、どこであるの?」
「今年は東北だって」
「……遠い。毎年違うの?」
「らしいよ」
話がうまく脱線しつつあるので機嫌はもういいのかなーと油断してた。
「でも補習、追試だって、あれだけ言ったはずなのに……」
「以後、ホント気を付けるから」
「私、創くんのお母さんじゃないよぅ!!」
楽しいはずの夏休み七月分は、部活と補習でガチガチ生活。どうにか追試で平均を上回り、無事任務終了。安心して総体会場へと乗り込んでいった。
夏休み期間中ということもあり、試合は毎日開催される。テレビで見る高校野球の甲子園ほどの盛り上がりはない。観戦席は選手として選ばれなかった部員と保護者ぐらいのもの。吹奏楽部や応援団は野球部専属みたいなもんで、甲子園の盛り上がりに比べたら……静かなものだ。
「新山、もっと出ろ!」
「山野ぉー!!」
普段の練習にはほぼ出てこない顧問がすごいリアクションしつつ声を張り上げている。
相手ゴールに近づくと興奮してみんな声が大きくなる。
シュートを外すとああー、と落胆の声。
ピッチの外と中は次元が違う。外からは何とでも言えるけど、中は思い通りにいかない戦場。
相手チームのフォワードが、ミッドフィルダーが我が校ゴールへ上がってくる。ディフェンダーがボールを取りに、パスを出させないように選手をマーク、ミッドフィルダーもゴール寄りに固まりつつある。
ちょっと戻りすぎじゃないか? チャンスが来ても攻撃できない。
チャンスは来なかった。そのまま守備はかわされ、攻め込まれ、キーパーが倒され、押し込まれたボールにゴールネットが揺れた。
人がぐちゃぐちゃっとまみれたと思ったら、一瞬の出来事だった。
相手選手が分散する中、主審とチームメイトがうずくまっている我が校の背番号1――加藤さんを囲む。
あ、イヤな予感してきた。
「青木」
「……はい」
万が一のために準備しろという合図だった。
あんなのが突っ込んで来たらひとたまりもない。とにかくボールをゴールに入れさせないために、ボールばっかり見ていたらあっちからこっちから人が突撃してくるようなものだ。怪我しない方がおかしい。
けっこう本格的に体を動かしていたのだが、キーパー加藤さんはどうにか復活、そのまま試合続行となったけど、俺は動きを止めることはなかった。
21という番号を背負ってるから、他人事ではない。キーパーの代わりは俺しかいない。なんてチームだ。おかげで一足お先にベンチ入りできたわけだけど。
俺の出番は結局ないまま、総体一回戦で敗退。県内トップクラスであっても、全国での一勝の壁は厚かった。
――試合、一回戦負け。俺は出れなかったけどいい経験できた。
『送信』
帰りの新幹線。トイレに籠って携帯をいじくってた。思いのほか揺れる車内に手元が狂ってうまく文字を打てず、時間が掛かったわりには短い文章になってしまったが、羽山にメールを送信。
なにやら戻っても野球部が甲子園行くまで部活がまともにできないとかで一週間練習時間短縮となった。休みにすると盆もあるから二週間も部活なしになるのでそれは回避する形である。しばらく試合ないからいいんじゃね? とも思うがそういう訳にもいかないようだ。
試合会場から行き当たりばったり新幹線で帰郷、最寄り駅まで戻ってきた頃にはもうバスなんてない時間。でも安心してください、電車に乗り継ぐ際、父に連絡しておきました。たぶんどこかに……ああ、いたいた、目の前にウチの車。
いくらもうバスがない時間とはいえ駅舎の真ん前に停車するとは。少しぐらい遠慮してズレとけよ。と思いながら助手席側後部座席のドアを開け、荷物を放り込む。
「おかえり創。残念だったな」
「ただいま。まぁでも、俺出てないし。次か、来年の試合はイヤでも出ることになりそうだけど」
後部ドアを閉めて自分は助手席へ乗り込み、シートベルトを着用。父もベルトをして、車を発進させる。
「ご飯は?」
「うん、腹減った」
「ファミレスでも行くか」
「よし、ステーキ御前とシーザーサラダとハンバーグ!」
「……まぁ、今日はいいだろう」
脳内はステーキでいっぱい、口の中で分泌される唾液量が増えた。じゅるる。
駅近くの深夜まで営業しているファミレスで腹ごしらえ。やっぱり弁当以外のものはたまらんウマい!
父さんは唐揚げを頼んだせいでビールが飲みたそうだったが、まだ運転して帰宅せねばならないのでガマンしている様子。ノンアルコールを追加で注文していた。
「次の土日、社員旅行で家にいないから」
「社員旅行? どこいくの?」
「箱根」
「ふーん。お土産なにがあるかわかんないとこだね」
「まぁ、何か買ってくる」
「伊吹んちの分もね」
「分かってるよ」
伊吹との関係はどうであれ、桜井家には何かと世話になってるからな。こういう時のお土産ぐらいしかお返しができない。
テーブル半分を埋めていた俺の注文の品は十五分も経たないうちに空にして、入店から三十分以内でお会計、コンビニで明日の朝食や菓子ジュース、父は缶ビールを購入し、帰宅。
荷物はダイニングにほったらかしてまた明日どうにかするとして、さっさと風呂に入り、部屋は窓が閉めきってあったので真っ先に開ける。そして布団にばったり倒れる。
ものすごい眠い。試合には出てないからこれは移動疲れか。
でも寝る前に羽山にメールしとかないと、無事帰宅しました、と。
それだけ打って送信。返信を待たず、眠りに落ちた。
朝、時計は九時を過ぎたところを指している。思っていたより早くに目覚め、真っ先に確認したのは携帯。昨日、いろいろ書きそびれたことがあったのもあるし、何より送りっぱなしメールばかりだったから、ちゃんと返信の返信をせねばとも思って。それに今日、明日は部活が休み、あさってから四日ほど時間短縮での部活。ようやく羽山とデートらしいデートができる、いやむしろ初デートではないのか? 俺が部活休みの時ってテスト期間かだいたい雨だし、一緒にどこか行ったというよりコンビニで会った、アパート前で会話ぐらい。俺は部活、羽山も家で家事をしなければならないから、学校帰りにどこかで待ち合わせて一緒にぶらぶらとかなんてできないし。
そうか、初めてになるのか……。今日、急だけど大丈夫だろうか? 今日がダメでもまだ明日があるし、土曜まで部活はあっても……。
土曜? 日曜と社員旅行。そうだ、父さんいないんだ……。
いないのか? じゃ、羽山泊まりに来ても大丈夫じゃん。そうそう、泊まりに……!!
それ、ただごとじゃないよ!!
ちょっと待って、ちょっと待って……。もしかしたら何も起きないかもしれないじゃないか。そんな訳あるか!
いやいやいや、そこはどうでもいい、あとで考えろ。今日はデートだ!
ということで、昨日の返信を兼ねてお誘いメールを送る。休みだから返事はのんびりかな、と思って一階に降りてほったらかしの洗濯を始めようかぐらいでメール受信音。思ったより早い、さすが主婦、休日ものんびりしてない。
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性別:
非公開
職業:
創作屋(リハビリ中)
趣味:
駄文、らくがき、ゲーム
自己紹介:
元々はヘンタイ一次創作野郎です。
絵とか文章とか書きます。
二次もどっぷりはまってしまったときにはやらかします。
なので、(自称)ハイブリッド創作野郎なのです。
しかし近年、スマホMMOにドップリしてしまって創作意欲が湧きません。
ゲームなんかやめてしまえ!
X(ついった)にはよくいますが、ゲーム専用垢になってしまいました。
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